崩壊:7
私の叫びと共に発せられた彼女の咆哮がひび割れたガラスを振動させ、破砕した。
「あ、うわ……ああ!!」
爆音。優はパニックになったのか、唐突にショットガンでその弾丸を彼女に撃ち放った。彼女の左肩が吹き飛び、透明な液体が飛び散る。水のようにしぶく粘液、ジェルのようにどろどろした粘液、油のように薄い膜を作りながらだらだらと流れる粘液。どれも透明だが、成分の違う粘液が溢れ出す。
彼女の叫び声が残響する銃声をかき消した。つんざくような、懇願するような、哀願するような。
泣いているような、叫び声。
「優……貴様何をしたか……分かってるか……?」
「う……るさい! あれを殺せばそれで」
「彼女を“あれ”呼ばわりするな!!」
私は跳ね上がるように立ち上がり、撃たれていない右手で優の、奴の首を掴む。
「撃ちやがって、貴様撃ちやがって!!」
「ごほっ……目ェ覚ませ……響は、まだやり直せる……お前は、人間じゃ、ねえか」
「人間?」
ぽたり。
「私が人間?」
ぽたり。
「くくく……ははははは」
あははははは――。
笑い声が、空気を凍らせる。
「……響?」
「人間だからやり直せる、だと?」
乱暴に優から手を離し、右手に持ったナイフで左腕をすーっと、切る。その左肩の白衣はぐっしょり濡れている。
水をぶちまけたかのように、透明に。
ずずず、とナイフの先端が腕の皮膚を掻き分けて刺さり込み、一筋の傷を作っていく。肘から手首、そして手のひら。私はナイフをその中央に突き刺し、貫いた。ゆっくり、ゆっくり、柄ぎりぎりまで、見せつけるように刺し貫かせる。そして一気に引き抜くと、透明な体液がほとばしった。腕の傷口からも這うように体液が流れ肌を伝う。
そこに、色はない。
「響、そ、それ」
優は彼女の傷と私の傷を見ながら、悟る。
私はおかしくてたまらなかった。
「あははははは!! ああそうだよ、私の身体には彼女の体液が入っている。亜依が蝕まれたように私も体組織が作り替えられ始めてるのさ……!」
彼女の鳴き声と私の笑い声が響く中、優はがたがた震えながら必死にショットガンを構える。そんな優に、私は問いかけた。
「優、私をこれでも人間だと思うか?」




