崩壊:4
ナイフは優のずっと横へと、音を立てて転がった。別にそれは問題ではなかった。ただ、私の怒りを伝えたかった。
殺させるものか。
殺させるものか。
彼女を、殺させるものか。
「あいにく私はお前とは違って、世界全体を守ろうだなんて優等生な思考は持っていない。現実味のないそんな物より、私は目の前にいる命を、守る。それが他人に理解されなくても、私は構わな」
拳の固さを頬で感じながら、自分は殴られたのだと理解した。よろめき、倒れる。彼女の怒る声が遠くから聞こえる。彼女を閉じ込めているガラスを殴る鈍い音も。
立ち上がろうとすると、ショットガンの銃口が私の頭に当たったのを感じた。
「俺だってこんな事したくねえよ。仲間だぞ、少なくとも今までは……仲間だと思ってたんだぞ。けどなぁ、お前のその知識と行動はよ、放っとけるようなもんじゃねえんだよ……。同じ科学者だからこそ、危険だって分かっちまってんだよ」
優の声は震えている。泣いていた。鉄の冷たさが髪の毛をすり抜けて伝わる。しかし、不思議と命の危険は感じない。優の意志の揺らぎを感じるからだ。
「優……」
私はショットガンを突き付けられたまま立ち上がる。しかし優は動かなかった。私はゆっくりと言う。
「……私と一緒に、ここで研究しよう」
優の心が揺れる音がした。
かすかに外から聞こえる、ぱたぱたとした音。
今日は雨のようだ。




