崩壊:2
「目ぇ覚ませよ、響」
こつ、と私と同じ靴を鳴らし、研究室に1歩を踏み入れた優。私と同じ白衣を着ていた。
「響、お前はこんな所にいるべき奴じゃねえんだよ。帰って、また研究を続けて、医療の発展に貢献しようぜ。俺達の本来の目的はそれだったろ?」
「なぜ私が人類の発展にしないといけない?」
「響にはその才能と力があるからだよ」
「だから、私を連れ戻す為に……彼女を殺すと?」
重量感のあるショットガンを彼女に向けたまま、続ける。
「普通に考えてみろよ、そいつはただの化け物じゃねえか。……俺もあの事件に立ち合ってたんだ。もう、そいつは“亜依”じゃない」
「彼女は“アイ”だ」
「おい、響」
苛立ちを抑えるようにしながら優は私に近付いてくる。
「響、こいつがこの研究室から出てしまったらどうなるか、分かるか?」
「ああ」
「こいつのせいでいくつの命が失われるか、分かるか?」
「ああ、大体な」
優は私の胸ぐらを掴んだ。
「……下手すりゃ人類の危機だぞ」
「それが何か不都合か?」
突き放すように言うと、優は信じられないという風な顔をした。
「響……お前、何を」
「お前はどうせ命の尊さを私に説くんだろう? どんな命も、かけがえがないんだとな。私は、彼女を愛している。同じ1つの命としてな。なあ優……命の価値は計れるか? 計れないだろう? 無限大なんだ。命の価値はいくつあろうと、1億だろうと1つだろうと、無限大だ。変わらないんだ。だから私は彼女の命が守られるのなら、何人死のうが構わない」




