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缶詰が2つ、私の研究机の上にある。食料も少しずつだが確実に減ってきており、もう大量に食べる余裕もなくなってきているのだ。
かしわ飯とチャーハン。
……どっちを食べようか。悩み始めるとやたらと止まらなくなってしまう。胃袋に納めてしまえば変わらない事なのだろうが、実はこの2種類はどちらもお気に入りで、なおかつ最後の1個ずつなのだ。
そんな事に頭を使っていると、ふと頭を貫くような視線を感じた。とは言っても私に視線を送るモノなど1つしかないのだが。顔をあげ、ガラスケースの方を見ると案の定、彼女が私……ではなく、この缶詰を見つめているようだった。何だか興味ありげに上体を起こし、鼻面をこつこつとガラスに当てている。
私は手に缶詰を2つ持ってガラスケースの扉を開けた。襲われる可能性も0じゃないとは思ったがこの9日間、私に対しての凶暴性がぐっと減っている。私に慣れてきたのかそれとも別の要因か、明確な理由は分かってないのだが、彼女が気になっているなら見せてあげない選択肢はない。
彼女の近くにそっと缶詰を置く。どうせなら彼女が選んでくれた方の缶詰を食べようか。ずりずりと身体をひきずった跡がぬるりと残る。とは言っても既にガラスケースの中の床は彼女の粘液ばかりなのだが。手をついて、身体を乗り出すように顔をすい、とその小さな缶詰に近付ける。
少し口を開け、そこから大きな、大きな舌が現れた。私の腕よりも下手をしたら太いのではないかと思う。色は肌に近く、しかしかすかに赤みを感じられるようなそんな青紫色。手で触れるように、唾液に包まれた舌で缶詰を撫で回すように扱っている。感触などを確かめているのだろうか、食べ物なのかどうかを確かめているのだろうか。
と、思うとその舌で缶詰を1つ絡め取り、そのまま缶詰を口にくわえた。食べられると思ったのだろうか。しかしそれは肉などではなく固いモノなのだと分かっただろう。
彼女は缶詰を呑み込んだ。
ちょっと待て。
金属を食べた。彼女はきちんと消化できるのか? 体調に不具合が起こる可能性も十分ある。どうすればいいか、いやでもあまり彼女に強制をさせては怒ってしまう。だが最悪の事態を迎えるなら……。
彼女が虚空で口を開閉させだした。尻尾を波立たせながら喉を膨らませ、顔を床に向けたかと思うと、ぼたぼたと黄色がかった液体を幾筋か垂らしながら缶詰を吐き戻した。流石に金属は消化できないのか、それともまだ身体が未熟なだけなのか。缶詰は少しだけ溶けかけていた。
もう少し彼女が大人しくなったら缶切りの使い方でも教えてみようか。
結局今日は彼女の選んだ方の缶詰に入っていたかしわ飯を美味しく頂いた。




