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 徹夜で頭が朦朧とする。彼女はすやすや寝ている。私は40時間ほど寝ていない。

 観察の結果、アイの身体に流れる液体は、全て色を持たない事が分かった。

 アイに腕が生えた時に飛び散った液体、あれは血液だった。そして体液、もちろん唾液も、色を持たない。区別するには、粘性や成分を比べなければならない。

 アイは透明でできていた。その通りだと思う。どのような色にすら感化され、しかしどのような色の中でも息づいている唯一の色。そこにあると誰も否定できない、そんな存在。アイにふさわしい色だと思う。

 アイの身体はしっとり湿っている。あの透明な粘性は体液の一部。その肌を保護し潤わせ、そして抗菌の役割も担っているようだ。

 私は日記を手に持ち、机を立つ。

 スイッチを押し、ガラスケースを開ける。アイがいる。目の前ではない。触れられる距離。消えてしまう前に、私が死んでしまう前に。

 頭がぼーっとする。徹夜のせいだけではないような気がする。原因は分からない。

 アイに毒されたのだろうか?

 ……気づいたら笑い声を漏らしていた。

 寝ているアイに触れてみる。ぬらりとした液体、手に移る。汚いとは思わない。思うわけがない。私が触るのは尻尾。ゆっくりとうねり、私の肌に確かな命を感じさせる。

 幻想でも空想でもない。目頭が熱くなる程の現実。

 ああ、アイ。

 半身で横たわる彼女を仰向けにさせる。ああ、彼女の身体をこんなに間近で。初めてだ。しなやかな肉付き、無駄がない。

 彼女の首と胴の境目は、腕が生えた事で分かりやすくなった。では、胴と尻尾は?

 彼女の身体は基本的には蛇に近い。蛇の場合、胴と尻尾の境目にあるのは総排泄孔だ。彼女はどうだかは分からない。何せ、彼女が排泄をした場面をまだ見た事がないのだ。尻尾の付け根のような辺り、縦に割れ目が見える。そっと撫でる。愛おしい。独立した生殖器なのか、排泄も担っているのかは外見からは判断できない。判断しようと思ったら、彼女が起きるだろう。それはなんて申し訳ない事か。

 だから、せめて尻尾を抱いてみる。


 人の身体と比べ、少しだけ柔らかく、衝撃と触感を吸収し包み込む彼女の肌。白衣が濡れる、肌が湿る、心地よい。彼女と触れ合い一体となった錯覚を覚え、それに溺れる。 アイ、お前は私を愛しているのか? それとも殺したがっているのか? どちらでもよい。だが、人間には、人間だけには歩み寄らないでくれ。お前を、私を、世界から隔絶した奴らだけには。

 本能に生きるお前こそ、美しい。

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