石井真理子 【アイロン責め】
5話目です。
「『受刑者』を指名し、拷問するまでの制限時間は1分。ルールを破れば即死刑だ。それではスタートっ」 俺、石井真理子は『ゲームのオーナー』に、『拷問者』に指名された。最悪だ。誰も傷付けたくない。傷付けられる処を見たくない。しかし、何もしなければ、あの馬鹿、荒川みたいに体が爆発して、死ぬ。それだけは、嫌だ。 俺は、近くにあるアイロンを右手にとった。 「【アイロン責め】っ」と『ゲームのオーナー』が叫ぶのが黒いスピーカーから聞こえた。「『受刑者』の素肌にアイロンの底を押しあてろっ」 俺はアイロンの底を見た。充電はされていないのに熱を帯びているのが分かった。相当熱そうだ。少し触っただけで火傷しそう。 その時、 「僕を『受刑者』にしてくれないか?」 名乗りを挙げたのは、浅田仁だった。 「いいのか?」 「あぁ」 「じゃあ、拷問開始するぞ? でも大丈夫だ。一瞬、アイロンの底を当てるだけだから。少しだけ痛むけど」 俺は言うとアイロン右手に浅田に近付いた。 「つっ」突然浅田が俺から逃げた。「やっぱり、無理だ。アイロンの底を素肌に押しつけられるだなんて。熱くて耐えられないよっ」 はっ? ふざけるなよ? 「俺が死刑になるじゃねぇかっ」 「嫌な事は、嫌なんだっ」 「駄目だぞっ」『ゲームのオーナー』が言った。「1度『受刑者』に指名された者はその運命から逃れる事が出来ない」 「そんなっ」秋田が悲痛な声を上げた。「嫌な事は嫌だっ。くそがくそがくそがくそがくそがくそがくそがっ」 「残り30秒」 『ゲームのオーナー』が言った。 不味い。このままじゃ俺が死刑だ。 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ」俺は浅田に向かって走った。必ず、このアイロンの底をあいつの素肌に押しつけるっ。 「嫌だぁぁぁぁぁっ」 「くそっ」 バコッ。 「えっ」 「ヴぁぁぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁっ」 「あっ」 アイロンの底が浅田の顔面に……。 「熱い。熱い。熱い。あづぅぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっ」 俺はその叫び声に我に返った。 俺の右手のアイロンの底が浅田の顔面に押し当てられていた。 あの時、俺はアイロンを右手に持ち、浅田に向かって走った。浅田はそれに対し俺の右足を蹴飛ばした。俺はその弾みでこけ、アイロンが浅田の顔に押しつけられる形になった。そして、今に至っている。 「あづぅぅぅぃぃぃぃぃっ」 俺は叫ぶ浅田の顔面から、アイロンの底を外した。 「何しやがるっ」浅田の顔は焦げ、激痛のあまり半泣き状態であった。「よくもっよくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」 「すまんっ」俺はアイロンを床に投げると、浅田に謝った。「わざとじゃないんだっ。許してくれっ。頼むっ」 浅田は俺に殴り掛かろうとした。 しかし、 「待てっ」 その言葉に浅田は静止した。 叫んだのは秋田一樹だった。 「皆で此処から脱出しよう」 その言葉の後に「拷問終了」と『ゲームのオーナー』の放送が流れた。