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春から夏辺りの話

水戸 心:生物部部長。超元気暴走ロリガール


林 巡:生物部心抑制係。ツッコミ役な主人公


戸永 七:生物部副部長。心の幼なじみおっとり天然系ガール


星江 放:生物部。泉の姉で心と同じく暴走ガール


星江 泉:生物部。放の妹で、麻酔針を持つ暴走ガール抑制ガール


【二年生ノ春】

俺、林 巡は今、聞き耳を立てている。決して盗聴などそんなやましいことではない、と一応弁論しておこう。


さて、俺が聞き耳を立てているのは薄い木製のドアの向こうから聞こえてくる歌にある。

歌い手はもの凄く美声のソプラノで、テレビ番組に出ていても違和感のないそんな美声だ。

しかし、残念ながら歌詞が酷い。


「屋根より他界~こいのぼり(母)~♪


大き~い真鯉は~お父さ~ん♪


父『いいかい?我が子たち―父さんは仕事に行ってくるからね。いい子にしているんだよ』


小さ~い緋鯉は~、子供たぁちぃ~♪


兄『うん。絶対に―』

弟『帰ってきてね!』

父『あぁ』


おもしろ~そぉ~に泳いで~る♪」


うん、満足した!と、本当に満足した声色に一瞬口元が緩んだが、やはりツッコミを入れざるを得ないだろう。


「全然面白そうじゃねぇ!」


ドアを全力で開く。そして俺は叫んだ。


「あっ!巡だ。聞いてくれたの?私の1stシングル『鯉昇り~田中さん家のケース~』!」


俺のツッコミを無視し、目を煌めかすのは幼なじみ兼この部屋の主である水戸 心だ。

小柄な体格なのに胸は中々あり、一部の者には反則級の彼女はそう言いながらCDケースを見せびらかす。大方、軽音部辺りを無理に動かしたのだろう。


心はその容姿から色目を使えば、男は勿論女ですら意図も簡単に動かせるのだ。


「歌詞が酷い」


率直にそう言うと、えぇ~!?と、物凄くオーバーに驚いてくれた。


「ん~、私的には歌詞の神様が降りて来てキタコレ!なやつなんだけどなぁ?」


「そんな変な歌詞をくれる神様なんか見放しちまえ」



はーい、と少し残念そうに心は自分の胸に手を当てて、何かを抜き出す仕草をとった。そして、窓を開けて可愛いらしく―


「おりゃああああ!!」


大リーグ投法で青空の彼方へと何か(歌詞の神様)を放り投げた。てか、可愛いらしくねぇ!

ちなみにスカートの中が見えてしまったが口が裂けても言えないな、水色だなんて。


「ふぅ、すっきりした!」


「そりゃあ、あれだけ豪快に投げればな。てか、今日は心だけか?」


「うん。何だか皆、用事やらあるんだって」


ノリ悪いなー、と口を尖らせる心は、何故か部室にあるステンレス製浴槽の縁に手を置く。そして、置いてある餌を小量手に取り撒いた。


中にいるのは大量メダカで、ぶっちゃけ適当に容れられている。

真ん中に仕切りはあるものの、育成的な選別ではない。心はメダカを『値段』で分けているのだ。


確か、右が緋メダカや黒メダカなど普通の店で安価で買えるもので

左が楊貴妃やミユキと言った下手をすればヤバイ値段になる高級なメダカが入っている。


ちなみに高級サイドに関しては、更に区画分けされており楊貴妃とミユキには別々の空間が用意されている。


「ねぇ、巡」


餌に群がるメダカを眺めながら、心は口を開いた。


「なんだ?」


「『ココロ 春の生き物乱獲祭』、やろうよ」


何か恐ろしいことを満面の悪気のない笑みで心はそう言った。


「・・・。30種くらい見つけたら何か貰えそうだな」


「あ、何か欲しい?じゃあ、30種で私とのデート!」


「心が遊びたいだけだろ」


「60種でチューかな」


「魅力的だが60種は無理だな。あと、自分を大切にしなさい」


「そして90種を飛ばして120種で・・・私を好きにして!」


「さっき自分を大切にしろと言わんかったか!?」


全く反省していない心は、にゃは~、と笑いながら入口付近に立て掛けられた虫取り網を手にする。


そして、可愛いらしくアレンジされたつばの狭い帽子を装着する。


「いざ参らん、春の乱獲感謝祭!」


意気揚々と恐ろしい台詞を吐きながら、心は廊下へと飛び出していった。


「こら、水戸!廊下を―」

「走ってません!駆けているんです!」


たまたま通り掛かった教師の注意を軽く受け流し、わははは!と、テンション高々に廊下を走っているようだ。

てか、走る=駆けるなんだけどな・・・。そんな心に続き、俺も部室をあとにした―勿論、外にいる呆れ顔の教師に会釈して。



「こら!星江の泉の方、廊下走らないの」


生物部を出て、階段を下り一階を目指す。またもやここでデジャヴュなシチュエーションが。女教師の苦笑混じりの注意が飛ぶ。

対象―星江 泉。泉は俺の後輩で、もちろん生物部だ。でかい魚(メーター越え級)が好きで、スマホの待受がクエだ。


「走ってなどいません。私は生物部へと少々高速で向かっているだけです」


無機質な泉の声が迫ってくる―階段を駆け上がり、泉は俺と対峙した。

異常なまでに長い制服の袖と、可愛いらしい顔には似つかわしくない眼帯が彼女の特徴だ。なお、目の手術の関係で付けているだけで、決して魔眼の持ち主ではない。


「よ、泉。なんだ、用事じゃなかったのか?」


「巡先輩こそ。部室に行かれないのですか?」


「一回行ったんだが、心が春の大乱獲感謝祭をするって言うから中庭に行くとこだ」


「何に感謝するんでしようね」


「むしろ生物からは恨まれそうな企画だな」


偶然会った泉をメンバーに加え、とりあえず中庭を目指すことにした。




「ちょりゃさっ!」


心は、中庭にいた。網を乱舞させ、乱舞するモンシロチョウの大群と戦っていた。

一見すると、チョウと戯れている女子高生に見えるが、流石にバク転からのハンドスプリングによるアクロバット捕獲を戯れとは呼ばない。


「しかし、ミニスカートであの動き―下着を曝したいとしか思えませんね」


「まあ、心だからな」


泉の冷静な分析に、俺は全く根拠のない返答をする。しかし、泉のいうことは案外的を射ているのかもしれない。

女子高生が普通あんなアグレッシブな動きを―しかも、下着が見えるスカートでするなんてただの露出狂だ。まあ、露出狂ではない気はするが。


「あ!巡に遅ーい!あれ?泉ちゃんだ!」



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