第八話
沈黙が続くので、気まずくなった僕はテーブルに置かれたジュースに口をつけようとしていた。
「あのね・・・これ見てくれないかな?」
彼女は、テーブルの上に薄い冊子を置いた。
「武蔵野芸術大学 人間芸術サークル(エリオット) 成立二六年記念祝賀会・・・」
「サークル・・・?」
「あのね、あたし達本当は東京の人間でね、このサークルの活動でこの町に来てるの」
言われてみれば納得できることだった。彼女のウェーブがかかった厚みのない綺麗な茶色の髪の毛。真新しい洋服とその着こなし。どちらも、この町の周辺じゃ見かけないような、テレビや雑誌の中に登場する女の人の姿だった。
「はぁ」
「だからね、映画を撮り終わったらあたし達帰っちゃうの、みんな」
「はぁ・・・」
彼女は、僕の全身を首をかしげたまま眺めている。やがて彼女は僕の隣にやってきて、ピタリと僕の体にくっつくようして座った。僕の嗅覚を彼女の髪の毛の匂いとメスの体臭が刺激する。僕がごくりと唾を飲み込むと、彼女は僕の反応を楽しんでいるかのように笑った。
「あのね、これ見てきて欲しいの」
彼女は一本のビデオテープをテーブルに置いた。
「それでね、今度来たとき感想を聞かせて欲しいの。このテープの内容について」
「はぁ・・・」
「待ってるから、君のこと。みんなも・・・あたしも」
彼女はそう言うと手のひらを蝶の羽のように動かして僕のふともものあたりに触れた。
僕はそのとき、彼女の目の奥で青いものが光っているのを見逃さなかった。
「じゃあ、待ってるね」
ドアの向こうで彼女は僕にそう言って、僕も彼女にお礼とお別れを言った。
外は日が落ちかかっていて、どこからかウシガエルの鳴き声が響いていた。