第七話
改札口には駅員の姿がなっかた。どうやら無人駅のようだ。駅を出るとすぐに神社があり、そのまわりには田園が広がっている。蝉の鳴き声は、僕を大げさに歓迎する。
交番に入って住所を聞き、手紙に書いてある建物のある場所まで、細い道を歩く。穏やかな古い民家が転々と建ち並ぶ風景が続いていたが、やがて低く長い生け垣に囲まれた建物が僕の目の前に現れた。建物は2階建ての集合住宅で、その全体がまわりの景色に比べてかなり色あせている。
「・・・古いアパートだな」
僕はぼそりと口にした。手紙に書いてある部屋の前に行き、そっとインターフォンをならした。
しばらくしてドタバタとした物音が部屋の中で響く。
「誰?」
ドアの隙間から現れたのはか22か23ぐらいの少し大人なお姉さんだった。
「あ、神崎の友達なんですけど・・・」
「神崎?」
「はい・・・」
ドアの隙間から部屋の中の様子をうかがうと、白とピンクに統一された家具やカーテンや、筆記体の英語がプリントされたタオルが壁に掛かっている様子が見える。歌手の花崎あゆみのものだろうか・・・?
「ちょっと待っててね」
「はい」
彼女はそう言うと、携帯電話で誰かに電話をかけているようだった。
「・・・らない・・・でも・・・うん・・うん・・そうする・・・わかった・・・」
彼女は電話を切ると僕に向かってこう言った。
「ゴメンね、ちょっと上がってもらっていいかな?」
「は・・・い」
僕は、ほのかな香水の匂いが漂う彼女の部屋の中に案内された。
短い廊下の両側に、台所と、トイレと風呂。廊下の突き当たりが少し広い部屋になっていて、彼女に言われるがままに、僕は乳白色のソファーに座った。ソファーのすぐ前のガラステーブルには、プリクラ帳や、化粧品のガラス瓶が並んでいる。ほんとにこのお姉さんが神崎の彼女だったのだろうか・・・
お姉さんは、コップに入れたジュースに丁寧にストローをさしてテーブルの上に置きそれを僕に勧めた。そしてソファーとは反対の壁側のベッドに足を組んで座った。
「神くんの友達なら・・・17歳?」
「はい・・・ あのインテリアがおしゃれですね・・・はは」
社交辞令ではなく、本心から出た言葉だったが、彼女は僕の言葉を聞くと、少しうんざりした様子を見せた。
「神くん・・・事故で死んじゃったんだって?」
「はい、あのでも手紙がきてて・・・」
「自殺って書いてあったんでしょ?」
「え・・・はい 知ってるんですか?」
僕がそう言うと、お姉さんは斜め下の当たりに目をやり何回かまばたきをした。