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第六話

港町に向かう電車に乗っている。電車の中がリラックスできる場所だと感じられるようになったのは、最近になってからだ。

電車の中。それは少し前は僕にとって苦手な場所でしかなかった。それが苦手な場所ではなく、心休まる場所に変わったのは、いろんな事にひどく疲れるようになってからだ。


この中では僕を縛るような物は何もない。好きな音楽を聞きながら、流れる景色でも眺めていけばいい。ともかく、神崎の手紙に書いてあった住所は僕の町から少し離れた、海沿いの漁師町の住所だった。


昔、僕の親戚のおばさんのいとこの誰の誰が住んでいるという関係で、訪れたことがある町だが、堤防に続く下り坂に、生活感溢れる家々が立ち並ぶ、絵本の中に登場するような町だったことを覚えている。


ともかく僕は、その絵本の中の港町に向かう電車に乗っているのだ。


そうそう、葬式があって一週間立つけれど、吉田なんて殆ど神崎のことを忘れたんじゃないかっていうぐらいに、あいつのことを口にしない。僕もこの手紙がなかったら、あいつの事なんて忘れてしまっていたかもしれない。お調子者が事故で死んだ。それだけ。新聞の中の5行分の言葉であいつの死は世の中に伝えられる。


ぼーっつと窓を眺めていたら、窓の向こうで森が途切れ、海が現れた。そこら辺の映画のオープニング何かよりはよくできてるじゃないのこの景色・・・


あ、それとあの事故があってから屋上にフェンスが設営されることが決まったらしい。バカじゃないかっておもう。事故が起こったのは、屋上にフェンスがなかったからじゃない。僕らみたいな生徒が学校にいたからだ。その分あいつの彼女にあって、あいつが死んだ原因を探そうとしている僕なんか、教育委員会越えちゃってるかもね・・・なんて。


 それにしても窓の向こうからはどんどん近代的な建物がなくなっていく。英会話学校の看板や、巨大なマンションの姿はこの町にはない。昭和初期ですか・・・ここは?なんて思っていると、木造のプラットホームが現れ、スピードを落とした車両はやがて音を立てずに止まった。


`はだしのげん`みたいな昭和のお子さまが走り込んでくるに違いないなんて思っていた、開いたドアからは、夏の海を感じさせる塩のにおいが香ってきた。




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