第四話
神崎は着地に失敗して死んだ。それは何度も口にすることで、僕の中で確かな事実としてできあがっていたはずだった。
子供に家の手伝いをさせた方がいい。僕の両親はその言葉を信じているらしく、まだ僕が小さいとき。そう、どうやって子供が産まれるのかとか、僕がそんなことを知らないときから、僕に毎朝、新聞を取ってくるようにしつけた。
それは僕の人生のどこで役に立つことになるか分からないが、もしかしたらそれが今日だったのかもしれない。
つまり僕には、家を出るときや、家にはいるときに、郵便受けを見る癖がいつの間にか付いており、僕が郵便受けの中の手紙を見つけたのもその習慣のせいだった。
白い封筒に僕と良く似た字で、僕の家の住所と僕の名前が書いてある。おそるおそる封筒を裏返すと、そこにあった名前は、僕がすごくよく知る。よく知っていたと思っていたあいつの名前があった。
神崎
昨日からこの名前ばかりに振り回されている。消印を見るとこの手紙が投函されたのはおとついで、それはあいつが空を飛ぼうと言い出す一日前だった。
僕はそそくさとその手紙を鞄につっこんで、家に入るなり自分の部屋へとまっすぐに向かった。
封筒の入り口をぴりぴりと破る。便せんは真新しい。文章はパソコンによって書かれているようだ。
もしかして遺書? あいつが? まさか・・・。 あいつが死んだのは事故だし、あいつが自ら死を選ぶような厳しい現実を抱えていたなんて、僕と吉田の想像力の五〇〇メートルぐらい外側の出来事でしかない。
それは昨日、何度も口にすることで僕の頭の中で既成事実としてできあがっていったことなのに。あいつは事故で死んだのだ。昨日、そうまるで漫画みたいに、ホントに笑えるくらいに古典的な姿で。頭にカーラーを巻いたまま学校に駆けつけた神崎のおばちゃんにも説明した事実のはずだった。
僕は封筒の中に、猫の生首はないにしろ、剃刀の刃や、なぜか神崎のへその緒が入っていないことを確かめながら、封筒の中から便せんを取り出した。