第十話
1時間ほどだっただろうか・・・ビデオの内容が終わる頃には、吉田は眠ってしまっていた。
吉田を起こさないようにこっそりと吉田の家を出て、集中しすぎて疲れた頭を休めながら歩いた。
テープは二本立てになっていて、前半はカルマというフランス映画、後半はエリオットが制作中の映画のカットが収められていた。
カルマについてだが、肉屋の主人が、自分の娘を溺愛するという設定の話で、アニエスBというデザイナーが監修に加わったこともあってか、非常に芸術的な作品だった。
問題は後編の映画だ。カルマをベースに作られているらしく、ストーリーが非常によく似たものだったが、僕が驚いたのは、神崎が俳優として出演していたことだ。
神崎の役柄は 肉屋の娘役であるあのお姉さんにひそかに恋心を抱く青年というものだ。カルマの中で、その青年は自殺してしまうが、まだそのシーンは撮影されていないようだった。
テープに収められた神崎の姿は、映画の世界の中で痛めつけられ、段々と衰弱していくのが分かる。
神崎が病院の屋上で彼女に向かって愛を叫ぶシーンでテープは終わっていた。
そういえばあいつが女の真似をして、僕や吉田や下級生に愛の告白をするという遊びをしつこく続けていた時期があった。今思えば、あれはこの映画のためのセリフの練習だったのだろうか。
カルマの中では、その男は肉屋の娘に愛を告白したあと、教会の屋根から飛び降り自殺をはかる。
あいつは教会の屋根と学校の屋上を間違えるバカでもなければ、映画の撮影と現実を間違える男でもなかったはずだ。
神崎の死の原因はそうやって僕の思いもしなかった方向へと進んでいった。