Ⅰ話 ~疑い~
ちょっとグロめな描写をしたつもりですが
生々しいのはやっぱり表現しにくいです。
_________ジャコンッ
少女の米神に、銃口が添えられた
緩やかに流れる時間の中、不釣り合いな程禍々しい殺気が森に立ちこめる
辺りが急に暗くなった様にも思える程、その眼から放たれる視線は鋭利であった。
その瞳が捉えているのは、ただ1人。
道を渡って来た少女だ。
しかし、当事者はというと..。
まじまじと自分に突き刺さる視線の先を見つめ、あろう事か、鼻で笑った
ピクリ、視線を送っていた男の眉が寄る
男が腰に引っさげた簡素な作りのベルトには、殺傷能力が高いであろう...
それでいて使い勝手に気を配って作られたような2丁拳銃の片方がささっている。
因にもう一方はアルトに銃口を向けられている事がわかる
男は、悪びれも無く、むしろ好奇心旺盛な子供のように純粋な瞳で拳銃をみつめるアルトに、
眉間に刻まれた皺をより一層深くした
....こころなしか、歯ぎしりまで聞こえてくるように思う
「...この道はどこに繋がっているか、知っているか?」
酷く冷たい声音が、アルトの耳の中にするりと滑り込む
男は返答を待った
しかし、アルトは視線を泳がせただけで、何も言わない
その仕草に気を害したのか、大きな舌打ちが森に谺する
声の主であり、先程の鋭い視線の主でもある男は、その鋭さをさらに増した視線でアルトを射抜いている
「知って、いるか?」
念を押す様に、そして何処か脅しの入った声がアルトの脳内を駆け巡る
アルトは焦っていた。そしてなによりも、アルトは
怒っていた。
なぜならその男の頬に、先程憎きハゲタカが奪い去って行った、妹のサンドウィッチの______
サンドウィッチの....__________サンドウィッチの.....
ドレッシングがついているのだから!!!!!
怒りで我を忘れそうになるのを必死に堪えながら、憎き相手の頬を見ない様にと視線を泳がす。
そう、怯えている様にもみえたのアルトの表情の真相は、
男を殴り飛ばたぐらいでは気が済まないくらいに怒り心頭で、その原因となるもの(ドレッシング)を見まいとしていた為なのだ。
アルトは、早鐘を打つ心臓を両手でぐっと押さえつけながら、深呼吸を二、三度繰り返した
だんだんと苛立ちは納まって行くが、やはりその頬を見る事は出来ない。
ようやく話せるまでに落ち着いた所で、アルトは口を開いた
ここまで待ってくれていた相手の頬には、依然としてドレッシングが付いているのだが。
「__..知らない。でも、この先にはもう用事が無いから....帰るわ」
一瞬、”貴方の所為だけどね”と言いそうになったアルトは、少々の間を空ける事で会話を上手く繋いだ
そのまま口に出していれば、彼の武器の銃口が火を吹くだろう。
妹が待っているのだ。これ以上ここにいる必要も無い。
___ていうか心配してるかなぁ、あーもう可愛いんだからっ!!!!待ってて、今すぐ姉ぇさんは帰るわよ!!!!
なんて考えていた事は、いつの間にか顔を俯かせていたおかげで誰にもみられなかった
...だが、衝撃の事実に、アルトは目ん玉をひんむくような思いをする羽目になる____
それは突然に振り翳された、不幸という名の刃。
「そうか。...だが無理な話だ、もう道は変わってしまっている」
『オ前ガ居タ場所ニ帰ルノハ、
不可能ダ。』
真実は、時に嘘を曇らせる程残酷で、闇色に染まる。
アルトは、一瞬何を言われたか解らずに立ち尽くした
体は岩の様に固まったまま動かず、柔らかな髪は太陽を反射する事無くよれている。
まるで彫刻の様になってしまったアルトの脳内では、
事実を認めたくない気持ちと、
景色が変わってしまった事の説明がつく事、
そしてこれからを無意識に考えている気持ちとで、
凄まじい葛藤がなされていた
男は片手を下ろし、嘲る様に笑う
「アリス、だから言っただろう?_____お前はこの世界に必要は無い。
そして、どの世界にも存在して良いはずが無いんだと。」
次の瞬間、
男の顔は歪んでいた
正確に言えば、アルトの手が彼の頬を思いっきり引っ叩いていた。
妹のもとへ帰れない悲しみと、
それを楽しそうに嘲う彼への憎しみと怒りがゆったりと混ざり合う
その気持ちが絶妙な協調性をもった所為か、その力は半端無かった。
実際彼の顔は、殴られた方の形が変わっている。
歯は醜く唇から零れだし、頬は抉れた様にこけ、変わりと言ってはアレだが白いぶよぶよしたナニカがみえている
そこからうっすらと滲み出る血は色濃く、濃密な血の香りが森を一気に殺伐とした場所へ変えた
虚ろになった瞳は、少なからずとも元の位置より前に突き出ており、頼りなげな神経が糸を引いて陽光に煌めく
ドサッ
僅かな呼吸音は、ヒューヒューと苦しげで。
そこに有るのは、もう生ける屍としか称しようのない肉のかたまりであった。
しかし、肉塊は...男は、立ち上がった
どんなゆらりと、まるでゾンビのように。
「ッヒュ、ヒュー...」
「ひっ」
ゆっくりとアルトを視界に入れた男は、一歩、また一歩とアルトの傍へ近づく
怖くなって来たアルトは、あまりに醜く姿を変えた男の姿に腰を抜かしてへにゃりと座り込んだ
涙が瞳を潤し、唇は緊張のあまり、かさかさに乾ききっている
ガシッ
アルトの両肩を、男が掴んだ
恐怖に歪む顔を見て、男はにやりと笑う
折れて突き出た歯から滴り落ちる血が、アルトの洋服に赤い染みを作った
「お前はやはり、アリスでは無いな。」
木の葉が、静かに舞った。
アルトの渾身の一撃で男の人瀕死(苦笑)
気分を害した方、すみません