夫から1034人の人妻を娶ると言い出された正妃の話
『前世を思い出した国王、人妻を娶り過ぎて妻が1000人を越える 』(https://ncode.syosetu.com/n5260mo/)の一部本文を再利用しています。
ルリアリスはアグラス王の正妃である。
実家の権勢だけで選ばれた妃で、この国の第一夫人の多くと同じく夫に蔑ろにされていた。
この国の政略結婚は、第一夫人の実家は重要な事業提携者で、第一夫人自体はその提携の証でしかない。
家の為の結婚は第一夫人と。
正妻である彼女以外の妻たちは政略結婚であったり、恋愛結婚であったり、自由に選べる。
アグラス王もそうだった。ルリアリスを正妃としながら、幾人もの側妃がいる。
その中でも寵愛しているのがシルヴィアだ。
妻たちそれぞれに与えられる予算は、夫の寵愛によって変わってくる。政略結婚の証はほぼ無く、実家から援助で賄われている。寵愛を受けている妻なら、それこそ正妻の実家が用意した援助以上の予算が与えられる。
シルヴィアとルリアリスの服飾費が逆転しているのも、夫であるアグラス王に愛されているかどうかの違いだった。
だが、ルリアリスはそんなことなど、どうでも良かった。彼女自身が政略結婚の証であると、自覚していたからである。
多くの第一夫人のように、蔑ろにされることを自覚した上での婚姻だった。何故なら、彼女の家でも第一夫人は虐げられていたからだ。
◇◆◇◇◇◇
「ルリアリス様!」
「どうしたの、マキナ? そんなに慌てて」
「シルヴィアが離縁されました!」
「シルヴィア様でしょ。陛下の妃を呼び捨てにはしてはいけないわ」
「だから、離縁されたんですよ! 元側妃です!」
「離縁?! 何があったの?!」
「詳しいことはわからないんです。シルヴィアが離縁されて連行されたってことしか」
「それだけでも、充分よ」
そんな会話をしていると、ドアがノックされる。
「ルリアリス様はおられますか!」
「はい」
ルリアリスはドアを開けずに応えた。
「陛下がお越しになられます!」
扉越しに要件が伝えられる。
「え?」
驚きの声を上げたマキナを無視してルリアリスは応えた。
「お待ちしていますと、お伝えください」
「かしこまりました。お待ちしていますと、お伝えいたします」
◇◇◆◇◇◇
「正妃。余は妻を娶ろうと思う」
「左様でございますか」
言葉は丁寧だがルリアリスの声は取り付く島もないほど、素っ気ない。
それはそうだろう。
側妃であるシルヴィアを寵愛し、ルリアリスを蔑ろにしていたのだから。
「其方は貴族の第一夫人で蔑ろにされている者がわかるだろう。リストを作れ」
「・・・? 人妻を娶るお積りで?」
ルリアリスにはアグラス王の意図が読めなかった。
それはそうだ。
側妃であるシルヴィアを寵愛し、ルリアリスとは距離を置いていたのだから。
今更、シルヴィアと離縁しても、その考えがわかるほどの付き合いはない。
「夫が大切にしない妻でも、政略結婚の旨みがあったのであろう? それなら、余が娶れば、王家にも利益があるはずだ」
「なんということを。政略結婚ですのよ?!」
「政略結婚は結婚しているという事実だけで、正妻を虐げても構わない等という戯言を言わせるものではない」
「ですが、これは政略結婚です!」
「それが破綻しているから、余が娶るというのだ」
「・・・?」
言葉を重ねても、やはり、ルリアリスにはアグラス王の意図が伝わらない。
「わからぬなら、余の命に従っておけ」
「かしこまりました」
◇◇◇◆◇◇
ルリアリスは命じられた通りにリストを作成した。
どの第一夫人が蔑ろにされているかなんて、社交生活をしているルリアリスには丸わかりだ。
まず、夜会やお茶会など、公式の場に出てこられない第一夫人。
時には第一夫人でもなく、第二夫人でもない女性ばかり連れまわされていることがある。
そういう場合は、第二夫人もリストに加えた。
あとは様子の可笑しい第一夫人を追跡調査。これでお飾り妻に社交の場にだけ連れ出す狡猾な家を把握できた。
リストアップされたのは、下は結婚年齢の最低限である14歳から上は86歳まで。計1034名。
その数にルリアリスはさもありなん、と思った。娘を嫁に出すことは、事業提携の証でしかないからだ。
ある家など、当主の母親、妻、息子の妻と三世代がリストに載った。
これには、リストを作ったルリアリスも驚いた。
◇◇◇◇◆◇
「ルリアリス。其方には、妻たちの管理を任せたい」
「管理、ですか?」
「そうだ。伯爵位以上の出身の者は客間を与え、侍女を5人まで付けることを許す。それ以下の者はメイドとしてできる職を与えよ」
「しかし、子爵位以下でも、あなたの妻です」
「大丈夫だ。彼女らとは、実家が国家事業と協力体制をとるまでの関係だ」
「協力体制・・・?」
「政略結婚の旨みだ。今までは貴族間でしか協力体制をとってきていなかったが、本来は国家事業であった案件が多く見られた。勿論、関税程度の協力体制もあったが、国家事業に組み込んだほうが良い案件が多くてな」
「そんなことをしたら、貴族が反発します」
「反発するのは第一夫人を粗略に扱っていた家だけだ。同じように国家事業にしたくても、第一夫人を大事にしていた家には手を出していないだろう?」
「それでも――」
「既に第一夫人との離縁で反発を喰らっている。これ以上の反発があっても、既に落ち目の家の抗議だ。数える価値もない」
「本当にそうなら良いのですが・・・」
「妻たちの話だがな。いくらでも間男が入ることのできる場所に妻を置いておくには好かん。誰の種で孕んだかわからない子どもを余の子として受け入れる気はない」
「ということは、白い結婚を?」
「そういうことだ。身分の高い妻は客。身分の低い妻は宮廷に働きに来た、と考えて対処してくれ」
「そういうことでしたの」
「余は、其方の家の価値を知っておる。だから、其方をそれに相応しい扱いをしたい」
「アグラス様」
「だが、余もただの男だ。好みの女だっている。それは忘れないでくれ」
それは、ルリアリス以外を寵愛するという宣言だった。
ルリアリスはその言葉に傷付いた。妻たちの管理は任せられても、アグラス王の一番にはなれない現実に。
不遇な第一夫人たちを娶った理由は、彼女たちの家との共同事業狙いだった。共同事業が始まれば、彼女たちは離縁する仲。
それで安心したのも束の間。愛されない宣言をされてしまった。
(また、見ていなければいけないの?)
◇◇◇◇◇◆
ルリアリスの予測通り、アグラス王には寵妃ができたが、寵妃がルリアリスを侮る真似をしようものなら、彼はすぐに離縁して追い出した。
それがルリアリスは信じられなかった。愛している筈の女性を追い出す行為を。
そのことをアグラス王に尋ねてみれば、ストンと納得がいった。
「たとえ、好みの女だろうと、正妻を立てるだけの品位のない女は妓女にも劣る。そんな女を妻にしておく必要はない」
アグラス王はある時点からルリアリスの地位を尊重するようになった。
その尊重する姿勢を蔑ろにするような女性には容赦がない。
愛はないが情はある。
そんな関係かもしれない。
寵愛は無理でも、アグラス王の女性の中で一番の地位はルリアリスなのだろう。
ルリアリスは自分の頬が緩むのがわかった。
アグラス王・・・前世(昔の東アジア)の記憶を取り戻して、ガチガチの儒教思想に染まっている。なので、地方分権な貴族の事業を国家事業にして中央集権を図る。
母などの女親族≧正妻>それ以外の妻≧恋愛対象||越えられない壁||正妻を尊重しない愛人
マキナ・・・現場にいた人間より先に状況を知って話せる事情通。恐ろしい子。
近隣諸国・・・今までのこの国の政略結婚の在り方がおかしかったので、親族を嫁がせたくなかったが、今はまともになったので嫁がせられると安心する。




