なんでこんな仕事があるんだろう
「ねぇ、先輩」
「どうした、後輩」
「なんでこんな仕事ができたんですかね」
「いきなりなんだ」
「私は正直理解できないんですよ。こんな意味のない仕事を求めている人がいるって」
「元も子もない事を言うな。求められているからこの仕事があるんだろう」
「堂々巡りですよ。しっかり会話をしてください」
「馬鹿馬鹿しい。お前、しっかり資料を読み込んだか?」
「話逸らさないでくださいよ。私はなんでこんな仕事が必要なのかっていうのを……」
「依頼者の娘の命日は?」
「……4月19日です」
「娘の好きなものは?」
「オムライスです。それもケチャップ多めの」
「具は何が好きなんだ?」
「ちくわです。そもそもちくわが入っているのは元々この家ではチャーハンに余り物を入れる習慣があったからです。そして娘が好きなちくわ入りオムライスは元々はチャーハンだったものをケチャップの消費期限が3ヶ月も過ぎていることに気づいた依頼者が『火を通せば大丈夫』っていう意味不明な考えから無理矢理オムライスにしたことが原因です」
「完璧だな。依頼者も満足するだろう」
「……で、先輩。話の続きですが、私はこんな仕事を求めている人がいるなんて理解できないんですよ。だって、依頼者は『娘が死んでいるのを理解した上で』私達に娘の真似事をさせるんですよね?」
「あぁ、そうだな」
「こんなの悲しくなりませんか。風俗やキャバクラと同じじゃないですか、お金払っている間だけ自分の望むよう口を聞いてもらい動いてもらうなんて」
「お前、女なんだからキャバクラはともかく風俗なんて口にすんな」
「今更ですね。先輩がよくそこにいるから迎えに行く私もなんか馴染みの顔みたいな扱いになっちゃったんですよ」
「そら悪かったな。さて、ぼちぼち仕事だ」
「あっ、待ってくださいよ、先輩。まだこの話は終わっていな……」
「いいから完璧に演じて来いよ。死人をな。終わったらまた話を聞いてやるよ」
「あー、もう。ちゃんと付き合ってくださいよね」
*
「先輩」
僕は先輩に声をかけた。
僕は僕に戻った。
時間がもう過ぎたから。
先輩は僕に声をかけられてもしばらくの間は無言だった。
ほんの一瞬前まで確かに見ていた『自分が会いたかった相手』の消失が受け入れられなかったように。
僕らの仕事は度し難い。
僕らは依頼者が望む死人を演じるのだ。
顔や背丈を合わせて、声色を真似て、依頼者から入念な聞き取りを行い、可能な限り生前と変わりない姿を演出する。
僕の先輩である女性はこの道のベテランだった。
演技は上手く、記憶力もいい。
彼女は誰にだってなることができた。
――だけど、今日この仕事を引退する。
「先輩。どうでした?」
「ん」
先輩はようやく反応を見せた。
「僕は先輩の『先輩』になれていましたか?」
「そうね。しっかりなれていたと思う」
意図の読めない笑みを彼女は浮かべた。
先輩の『先輩』は男だった。
聞けば先ほどまで演じていたやり取りの後に事故にあって死んだらしい。
「あーあ」
先輩は息を漏らす。
「やっぱり、なんでこんな仕事があるのか分かんないや」
とても吹っ切れた笑みを浮かべながら。




