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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

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*たい焼き十五個のお守り

 宗右真は木寅を居間に通し、二階に上がる。

 帰るところを、話があると木寅に捕まったのだ。飲みに誘われることは珍しくはない。しかし、『どこかで飲みながら』ではなく、わざわざ、うちに来ると言うのだから、身内(・・)の話だろうと想像はつく。


 左久夜のことかもしれない。

 宗右真は、そう思っていた。

 このところ、どうも、左久夜の様子がおかしい。

 いきなり家に来るのは、よくあることだが。家に来て、錯乱したように名前を叫んだり。お守りを渡されたり。こんなことは、今までにもなかった。

 今さら、お守りなんて。軍に入って、何年になると思っているのか。


 宗右真は、制服を脱ごうとして、その前に、ふと、ズボンのポケットに手を入れた。


「……ない」


 反対側も確かめてみるが、感触はない。念のため、上着のポケットにも手をつっこむ。


(まずい……どこで、落とした?)


 思い当たるのは、家の鍵を取り出した時。木寅と話をしていて、落としたことに気づかなかったのだろう。


「クソっ」


 宗右真は階段を、バタバタと走って下りる。木寅なら、多少、放っておいても、一人で飲んでいるだろう。とにかくお守りだ。何が何でも、見つけなければ。

 そこにあってくれと、願いを込めて、玄関扉を開ける。しかし、見当たらなかった。

 薄暗い中、地面に膝をついて、雑草の茂みを探す。しばらく這いつくばっていると、木寅が出てきて、宗右真の前にしゃがみ込んだ。

 

「もしかしてさぁ、お前が探してるのって、これ?」


 彼の手にあったのは、まさに探していたお守りだった。


「どこで」

「そ〜こ」


 木寅は、ニヤニヤと、玄関の前を指差す。やはり、ポケットから鍵を取り出した時に、落としていたようだ。よかった。宗右真は、ほっと手を伸ばしたが、するりとかわされてしまった。


「おい、返せ」


 木寅を追って、宗右真は家に入る。居間のいつもの定位置に、木寅は落ち着いた。

 テーブルの上には、折り詰めと、酒。夕食の準備が整えられている。木寅は、そこへ青い守り袋を並べ、にんまりと笑った。


「それにしても、お前が連理(レンリ)さんのお守りを、大事に持ってるとはな〜。意外も意外」

「レンリさん? 誰だ?」


 宗右真が聞き返すと、木寅はしばらく沈黙してから、大きくうなずいた。


「あ〜、なるほど。はい、はい。そ~いうことね」

「どういうことだよ」


 宗右真には、さっぱり分からない。木寅は、にやついたまま、つんつんと、守り袋をつつく。


「つ〜ま〜り〜、これは、お前が自分で買ったんじゃなくて、誰かにもらったもので、その誰かは、サクちゃんってことだろ? どう見ても手作りだしなー、これ」

「……」

「サクちゃん、ぶきっちょなんだよなー。ウチでサヤ子と課題の浴衣を縫ってた時も、背中から、ぱっくり糸が解けちゃってさー、セミの抜け殻みたいに」


 あはははと笑う木寅に、宗右真は再び尋ねる。


「で、レンリさんって誰だ?」 

「誰じゃなくて、神社の通称な。そこのお守りが、女学生の間で流行ってんだってさー」


 そう言うと、木寅はためらいもなく、巾着のひもをゆるめる。ひっくり返した守り袋から、手のひらに転がり出たのは、薄紅色の丸っこい石だった。


「連理さんのお守りは、守り石って言って、バラ水晶なんだよ。でもって、水晶は魔導石の一つだろ? それで、サクちゃん、お前に持たせたんだろうな。実用的じゃないか」


 宗右真は「そういうことか」と、うなずいた。そういえば、以前、左久夜に魔導石の話をしたことがあった。それを覚えていたのだろう。


「ちなみに、それ。結構、いい値段、するんだぞ。一つ、十五銭」

「こんな、ちっせぇ石っころが?」


 宗右真は、まじまじとビー玉ほどの石を見る。

 ちょっといい昼食、かけ蕎麦に天ぷらの盛り合わせが、食べられるくらいの値段だ。


「たい焼き十五個分。サクちゃんにしては、十五個もよく我慢したよなー。あんこ大好きのサクちゃんにとっちゃ、死活問題だろ」

「多分、この間、俺が軍病院に担ぎ込まれたからだろうな」


 あのあとから、左久夜はやたらと心配するようになった、気がする。


「サクちゃんは、ナギさんのことがあるから。余計に心配なってるのかもな」


 水晶を守り袋の中に戻した木寅は、それを投げて寄越した。宗右真は片手でそれを受け取り、今度は制服の内ポケットにしまう。

 それから、宗右真は木寅に尋ねた。


「それで、お前の話って、何だ?」

  

 木寅はいくつか話をして、その最後。


「あー、そうそう。白瀬(シラセ)くんに会ってさ。紅緒(ベニオ)ちゃんが、今週中にも復帰するって」

「そうか」

「サクちゃんも色々、あるし。大河内さんの件もさ。紅緒ちゃんがいれば百人力だよな!」


 確かに、木寅の言う通り。身内(・・)である紅緒の復帰は心強い。だが個人的には、色々と面倒なことにもなりそうで。宗右真は小さくため息をついた。


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