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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

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甘い玉子焼き

 居間に置き去りにされること、十数分。

 宗右真は「飯の用意をしてくる」と、台所に行ったまま、戻って来ない。大人しく待っていたが、十五分経ったのを機に、左久夜は居間を出た。


「ソウちゃん?」


 左久夜が台所に入って行くと、食卓には、玉子焼きがあった。出来立てらしく、まだ湯気が上がっている。宗右真は、玉子焼きを作るのだけは上手かった。


「何で、大人しく待てねぇんだ」


 宗右真は肩をすくめてみせて、玉子焼きの皿を左久夜に向ける。


「持ってけ」


 左久夜は再び居間に戻り、いつも宗右真が座っている向かいに腰を下ろした。ここが左久夜の指定席でもある。

 食事の用意を整え、宗右真が折り詰めを広げる。


「ほら、食え」


 宗右真は折り詰めの中から、インゲンの白和えを左久夜の方へ寄越した。


「じゃあ、」


 左久夜は、いただきますと手を合わせる。

 インゲンを食べ終えると、次はシイタケの含め煮が小皿に乗せられる。


「ソウちゃん。いい年して、好き嫌いしてちゃ、ダメだよ」


 ぽつりと左久夜がこぼせば、宗右真はにんまり笑った。それは、悪人が何かを企んでいるような笑顔で、こういう時はろくなことがない。


「そりゃ、悪かったな」


 と、宗右真がシイタケの横に、ニンジンをポイポイ置いていく。


「〜〜っ、」


 花の形のニンジンが二つ。ぎゃあと叫びそうになるのを、なんとかこらえたが、思わず顔が引きつった。


「いい年して好き嫌いしてちゃ、駄目だろ。サクちゃん」


 そっくりそのまま返されては、仕方がない。左久夜は息を止め、ニンジンを口に入れる。高速で咀嚼ソシャクし、お茶で流し込んだ。その湯のみ越し、無言で宗右真をにらみつける。


「仕方ねぇな。これでも食ってろ」


 そう言いながら、宗右真は、食べ終えた左久夜の前に、玉子焼きを差し出した。

 玉子焼きは、左久夜も好きだ。安心して食べると、ほんのり甘かった。甘い玉子焼きは、左久夜の好物。それを、わざわざ作ってくれた理由は。


「母様とケンカしたって言ったから?」

「甘くないと文句を言うだろ、お前は」


 そんなふうに言う宗右真を、ふふっと笑って、左久夜は玉子焼きを食べた。甘い玉子焼きは、とても優しい。


 満腹になった左久夜は、箸を置いて手を合せた。


「ごちそうさまでした」

「おそまつさま」


 後かたづけを始める宗右真に、


「手伝う」


 左久夜は手を上げる。今日こそはと、意気込んでいたのに。その手に渡されたのは、折り詰めの空き箱と箸だった。どちらも、落としたところで壊れたりしないもの。

 それでも、いつかのように『頼むから、大人しく座っててくれ』と、懇願されるよりましで。

 左久夜は、宗右真の後を追った。



 二人で後かたづけを終えあと、宗右真が新しいお茶を入れてくれた。ちょっと苦いなんて、文句を言いながらも一服したところで、左久夜は思い出す。ほっこりしてる場合じゃなかった。


「ねぇ、ソウちゃん」

「それ飲んだら帰れよ。泊めねぇからな」


 絶対にと、宗右真は語気を強めて言う。いつものことだ。


「分かってる」

「だったら、カホルさんに一緒に謝って欲しいのか?」


 違うと首を振って、左久夜は改めて尋ねる。


「あのね、近々、討伐作戦ってある?」

「今のところ、平和だな。元々、帝都(ウチ)の管区は、魔物の生息域となる山林も少ねぇし。そう頻繁にあるわけでもない」


「そっか」


 左久夜の言葉尻にかぶって、「あぁ、そういやぁ」と宗右真がつぶやいた。


「南部の方は、ちょっとバタバタしてるらしいけどな」

「南部?」

「どっちにしろ、お前には関係ねぇよ」

「そうだね」


 うなずいて左久夜は、お茶を飲む。舌を刺激する苦味が、じわりと広がって、口の中にしつこく残った。


 


 家まで送ってもらった左久夜は、「ちょっと待ってて」と、玄関で宗右真を引き止めた。ちょうど渡したいものがあった。それを急いで取って戻り、宗右真に差し出す。左久夜が苦労して作った、紺色の小さな守り袋。


「何だ、これ?」

「お守り!」

「お守り?」


 宗右真が、すっとんきょうな声を上げた。その眼差しは、不審物でも見ているようだ。

 左久夜だって、もちろん分かっている。縫い目はギザギザだし、形はかなり歪んでいるし。お守りというのが不謹慎なほど、不細工な出来であることは。指先を何度も針で突き刺したのに。しかし、これが精一杯だっだ。

 ついでに言えば、一つ目は、あまりにもゴミのような出来上がりだったので、まさしくゴミ箱行きとなった。宗右真には内緒の話。


「ソウちゃんが、怪我しませんようにって、作ったの……だから、持ってて」

「ふぅん」


 半信半疑。いや、全く、信じてなさそうな返事だった。

 つき返されそうだと思った左久夜は、宗右真の手を取り、強引にお守りを持たせた。そうして自分は、両手をぱっと後ろへ隠す。


「まぁ、せっかくだからな」


 そう言いながら、宗右真が、お守りをしまったので、左久夜は安心した。


「ほら、さっさと家の中に入れ」

「うん。今日は、ありがとう」

「あぁ。おやすみ」


 左久夜も「おやすみ」と返して、家の中に入った。




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