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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

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真っ白な夢

「サク」


 呼ばれて、左久夜は顔を上げる。

 薄暗い森の中、目の前には軍服姿の宗右真がいた。

 あぁ、そうだ。これから討伐作戦が始まるのだった。


「分かってるな? 作戦通り、だ。くれぐれも無茶はするな」


 そう言い残し、宗右真は隊を率いて先行する。その背中に無事を祈りながら、左久夜はぱちくりと瞬いた。


(……あれ?)

 

 そういえば、今まで、宗右真とどんな話をしていたのか。ぼんやりしていたせいで分からない。それだけではなかった。今日の討伐作戦の中身についても、思い出せない。

 自分は、どこの班に配属されたのだろう。誰がいるのだろう。何を討伐するのだろう。

 ……まるで分からない。

 左久夜が首を傾げていると、後ろからポンと背中を叩かれた。


「頑張ろうな。サクちゃん」


 その声に振り向けば、木寅が笑っていた。


「大丈夫、大丈夫。手強い相手だけどさー、俺たちで討伐して、ソーマをびっくりさせてやろう!」


 もちろんと、左久夜は答えた。宗右真に、訓練の成果を見せつける機会でもある。その一方で、左久夜の心の中は、不安でいっぱいになっていた。


「ねぇ、トラちゃん。今日の討伐対象は何だっけ?」

「やだな〜。カタリーナだろ! ペトルーキオとケンカになって、それで魔物になっちゃんだろ?」

「ああ! そうだったね」


 左久夜は、そうそうと、うなずく。

 やがて時間になって、左久夜も木寅と移動を始めた。しばらくすると、宗右真の姿が見えた。彼は太刀を構え、大きな影と戦っている。


「サクちゃん、行くよ」

「はい!」


 しかし、左久夜が駆け出す直前。木寅が振り向いて、左久夜の足元を指差した。


「あ。そこ、気をつけて。過去形だから」

「え? 何? そこって、どこ?」


 まったく意味が分からない。木寅のあとに続くもりだった左久夜は、その言葉ですっかり出端デバナをくじかれた。木寅が勢いよく走って行くのに、左久夜の足は止まったまま動かない。

 そこへ、さらに宗右真の声が響く。


「よく見ろ。ここは三人称で、単数で、現在形だろうが!」

「え、何? ……何、言ってるの?」


 左久夜は、ただただ、立ち尽くす。頭の中が混乱していた。


「規則動詞は、語尾にedをつけて、過去形にするんだよ」


 木寅は式神に影を攻撃させながら、宗右真は薄緑で影を切りつけながら、言う。 


「違う! そこは、関係代名詞だ! 何度、言やぁ分かんだ! やり直せ! できるまで、昼飯は食わせねぇからな!」


「分かんない……分かんないって!」


 左久夜の声は届かなかった。二人は、それぞれ勝手にしゃべり続ける。


「ただし、語尾がyの場合は、yをiに変えてから、edね!」


 木寅が笑顔で、次々と術を繰り出した。

 炎が舞い、風が吹き荒ぶ。最後に雷鳴がとどろいた。森の中を稲妻が走り、視界が真っ白になって、左久夜は反射的に目を閉じる。


 それも一瞬のこと。


 次に目を開いた時には、森も魔物も部隊の仲間も、何もかもが消えていた。

 左久夜一人が、真っ白い空間に取り残されている。

 いや、違う。

 左久夜以外に、もう一人。雷光に目がくらんで、見えていなかっただけだ。

 真っ白い床の上、誰か、横たわっている。軍服を着た誰かが。

 その存在に、びくりと大きく体が震えた。


「え?」


 軍服の胸元は、赤く染まっていた。体の下からも、鮮やかな赤がじわりと広がっていく。


「何?」


 左久夜は、ぎゅっと制服の胸元を掴む。何だか息が苦しい。

 今すぐ、ここから逃げ出したい。そこに行っては駄目だと、何かが忠告している。近づきたくないと、心は拒絶する。

 それなのに。足は勝手に前へと進んで行く。まるで操り人形にでもなったように、ふらふらと。

 左久夜は、ぼう然と《《それ》》を見た。


「……ソウ、ちゃん」


 うつろな目は天を向いたまま、四肢は投げ出され、その体はピクリとも動かない。

 足から力が抜けて、左久夜はへたり込んだ。心臓が激しく胸をたたいている。


「ソウちゃん! やだ。起きて! ソウちゃんっ!」


 必死に、宗右真の体を揺さぶる。けれど、何も答えてはくれなかった。


「あ……あぁっ、あぁぁあああ!」


 左久夜は、物言わぬ宗右真にしがみついた。





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