表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/31

風邪ひきの看病

 前方に(ヌエ)を発見した。

 顔は猿で体は狸、手足が虎という奇っ怪な魔物は、木々の間を駆け抜けていく。


 左久夜サクヤは、班員とともに、それを追いかける。

 並走していた同じ班の術師が、風の呪文を唱えた。術で木の枝を切り落とし、鵺の行く手をふさぐ。鵺が動きを止めたところで、左久夜はすかさず、「鬼姫オニヒメ!」と、呼び出した。


 瞬く間に、鬼姫は鵺を細切れにして、せん滅。クスリと笑い声を残して、消えた。


 作戦終了。


 左久夜は、大きく息をつく。それと同時に、くらっ軽いめまいがあった。

 軍の訓練に参加するようになって、術の使い方も少しは上達したと自分でも思っていた。しかし、未だにうまくいかないものもあって。鬼姫を使ったあとは、依然、体がずしりと重くなる。


「……さん、大丈夫ですか?」


 その声に、はっと顔を上げれば、東条トウジョウが顔を覗き込んでいる。つかの間、ぼぅっとしてしまった。


「大丈夫です」


 慌てて左久夜が答えた、直後。背後からチリンと、鈴の音がした。今度は宗右真ソウマに問われる。


「本当だろうな?」

「えぇっと、本当は、少し体がだるいです。でも、これくらいなら、大丈夫だと、判断しました」


 左久夜は、正確に答えた。余計な心配はかけたくない。宗右真は「分かった」と、うなずきながら、時計に目をやる。それから「東条」と呼んだ。


「あとは頼む」

「はい。お気をつけて」


 東条の声と、


「え、軍部に戻らないの? ですか?」

 

 左久夜の声が、重なった。


「九区で討伐作戦がある」


 つまり、それに、宗右真も参加するということなのだろう。


「何かあるのか?」

「えっと、その……」


 左久夜は、ちらりと東条に目をやる。

 本当はもっとあと、軍に戻って、報告書を書いてから、言うつもりだった。宗右真と二人の時に。

 

『栄語の試験の結果が最悪で、補習と追試を受けることになった。だから、その日は訓練にも作戦にも参加できない』


 言っておかなくてはならないけど、さすがに、大きな声では言いにくい。声をひそめる。

 

「あのね、栄語の、」

 

 そう切り出すと、宗右真は最後まで聞かず、


「明日、うちに来い」と、ささやいた。

 

 いつもの課題だと勘違いたらしい。しきりに時計を気にしているので、時間が迫っているのかもしれない。

 左久夜は「分かった」と、うなずく。明日、報告するついでに勉強を見てもらおう。


「雨、降りそうだから、気をつけて」


 宗右真を見送った。




 翌日。

 左久夜は、荷物を持って、宗右真の家に行った。

 玄関の鍵が開いていたので、勝手に中に入り、三和土(タタキ)から声をかける。


 宗右真は、すぐ、奥の居間から出てきた。


「はい、これ。母様から」


 預かってきた風呂敷包みを差し出す。

 

「何だ?」

「いただきもののお酒。うちじゃ、誰も飲まないし。いつもお世話になってるからって」

「……あぁ」


 風呂敷包みを手渡しながら、左久夜は違和感を覚えていた。

 宗右真の様子が、変だ。休日にだらしがないのは、いつものことだけど。

 上がり(かまち)にいる宗右真は、いつにも増して、寝ぐせがひどい。それに、口数が少ない。


 機嫌が悪いような……。

 

 九区の討伐で、何かあったのだろうか。そう考えて、左久夜は思い直す。


 昨日の帰り、家まであと少しの所で、雨が降り出した。何とか、雨脚が強まる前に、家には入ることができたけど。それから、明け方まで雨はざあざあと降り続いたようだ。


 もしかしたら。

 左久夜は框に上がると、宗右真の額に手を伸ばした。思った通り。


「熱、あるじゃない」

「このくらい、どうってことねぇ」

「じゃないの! 病人は大人しく寝る!」


 左久夜は宗右真の手首を引っ張って、二階にある部屋に向かう。宗右真は、されるがまま、大人しくついて来た。かと思ったら、階段の途中。


「栄語の課題、大丈夫なのか?」


 なんて、いつもより張りのない声で聞いてきた。体がだるいのだろう。話し方もゆっくりしていた。

 これには左久夜も、ちょっと呆れてしまう。


「こんな時に、あたしの心配なんてしなくていいから。何とかなるし」

「何とかならないから、毎度毎度、泣きついてくるんだろうが」

「栄語で落第点とっても、死なないの! でも、風邪は万病のもとって言うでしょ。こじらせたら、どうするつもり!」


 ピシャリと言って宗右真を黙らせ、あとは、ベッドに押し込んだ。掛け布団を、肩口までしっかりとかぶせる。

 そうして、左久夜は一旦、部屋を出た。


「……」


 後ろ手にドアを閉めながら、小さくため息をつく。

 自分との約束があったから、宗右真は無理をしたのかもしれない……。

 宗右真に負担ばかりかけているんじゃないのか。

 つい先日、宗右真が入院した時にも、そう感じたばかりなのに。

 

(これからは、あまり迷惑をかけないようにしなくちゃ……)


 左久夜は手早く看病に必要なものをそろえて、部屋に戻る。

 濡らした手ぬぐいを宗右真の額に乗せ、左久夜は尋ねた。


「何か欲しいものはない? バナナとかラムネとか」

「……何だ、それ」

「病気の時は、バナナとラムネが定番でしょ? いらない?」

「いらない」

「じゃあ、しばらく居間にいるから、何かあったら、呼んで」


 ゆっくり休むように言って、左久夜は部屋を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ