それぞれの本当
ずんずん、ずんずん、宗右真は歩いて行く。引っ張られるまま、左久夜も尋ねたりしなかった。何を話していいのか、分からない。
そして、左久夜が連れて来られたのは、宗右真の家だった。
居間に通されて、そこでようやく、宗右真が口を開いた。
「母さんが、お前に持ってけって」
差し出された長方形の箱。その包み紙には、有名な菓子店の店名が入っている。
「舟忠って、芋ようかん?」
「お前の大好物だと、思ってるからな」
それに、左久夜は首をひねる。
宗右真の母、千鶴子には子供の頃から世話になっているし、顔を合わせれば話もするけど。
「千鶴子おば様と、芋ようかんの話なんて、したことあったかな?」
そもそも、芋ようかんは大好物というわけではない。
「前に家から、ようかんを持って帰った時、サクに食わせるって、うっかり言っちまったから、それで、ようかんが好きだって、勘違いしてんだよ」
「前?」
左久夜が引っかかったと同時。宗右真が「あ」と、こぼした。その、しまったという表情は一瞬。宗右真は、ぱっと顔をそむける。
「前って、もしかして、ご褒美の獅子屋のようかん? あのようかんって、家に帰った時、おば様に無理矢理、押しつけられたんだよね? それで、持て余してたんだって」
左久夜は、ちょっと怒った顔の宗右真に、矢継ぎ早に疑問をぶつける。顔は怒っているが、これは図星をさされたからで、本当に怒っているわけでないことは分かっていた。
「ソウちゃん、そう言ったよね?」
左久夜が追い討ちをかけると、宗右真は大袈裟に息を吐き出した。
「好きだろ? あんこ」
「だから、あの時は、もらって来てくれたの?」
「誰も食わねえって言うから」
「ありがとう」
左久夜は、芋ようかんを受け取った。が、宗右真は箱を掴んだまま、離さない。
「ソウちゃん?」
「……るかった」
ぽつりと、宗右真がつぶやく。
「え?」
「この間は、悪かった。せっかく、見舞いに来てくれたのに、怒鳴ったりして」
真面目な顔、改まった声で言うので、左久夜は思わず吹き出していた。
「何だよ」
「ソウちゃんって、たいてい、怒鳴ってるよ?」
「うるせぇ」
「やっぱり、ソウちゃん、優しい」
「何だよ、急に」
宗右真が戸惑うように見た。
左久夜は、まっすぐに宗右真を見つめ、「あのね」と、口を開く。病室での一件以来、考えていたことだった。きちんと、言わなくてはならない。このままじゃ、だめだと、ずっと思っていた。
「父様のことで、あたしが寝込んだのは、ソウちゃんのせいじゃない。別の理由があるの。ソウちゃんは無関係」
「は?」
「だから、ソウちゃんが責任を感じることなんかないし、父様の代わりをしなくてもいいの」
「お前、何言って、」
宗右真が顔をしかめる。その不可解そうな顔に、左久夜は気づいていたが、一方的にしゃべり続けた。
「あたしは、もう、大丈夫だから」
左久夜は、にっこりと笑って、箱を掴む宗右真の手を自分の手で包み込んだ。
「ソウちゃんこそ、自分を許してあげなきゃ。あたしはソウちゃんを恨んだりなんてしてない。母様も左希斗も、父様だって。誰も、ソウちゃんを責めたりしない。だから、自分を許してあげて。ね?」
「……」
「これ、ありがとう。じゃあ、帰るね」
今度こそ、左久夜は芋ようかんを受け取って、宗右真に手を振った。
3章 終




