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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
3章 にらみ合う二人、遭遇する二人

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それぞれの本当

 ずんずん、ずんずん、宗右真は歩いて行く。引っ張られるまま、左久夜も尋ねたりしなかった。何を話していいのか、分からない。

 そして、左久夜が連れて来られたのは、宗右真の家だった。


 居間に通されて、そこでようやく、宗右真が口を開いた。


「母さんが、お前に持ってけって」


 差し出された長方形の箱。その包み紙には、有名な菓子店の店名が入っている。


舟忠(フナタダ)って、芋ようかん?」

「お前の大好物だと、思ってるからな」


 それに、左久夜は首をひねる。

 宗右真の母、千鶴子(チヅコ)には子供の頃から世話になっているし、顔を合わせれば話もするけど。


「千鶴子おば様と、芋ようかんの話なんて、したことあったかな?」


 そもそも、芋ようかんは大好物というわけではない。


「前に家から、ようかんを持って帰った時、サクに食わせるって、うっかり言っちまったから、それで、ようかんが好きだって、勘違いしてんだよ」

「前?」


 左久夜が引っかかったと同時。宗右真が「あ」と、こぼした。その、しまったという表情は一瞬。宗右真は、ぱっと顔をそむける。


「前って、もしかして、ご褒美の獅子屋のようかん? あのようかんって、家に帰った時、おば様に無理矢理、押しつけられたんだよね? それで、持て余してたんだって」


 左久夜は、ちょっと怒った顔の宗右真に、矢継ぎ早に疑問をぶつける。顔は怒っているが、これは図星をさされたからで、本当に怒っているわけでないことは分かっていた。


「ソウちゃん、そう言ったよね?」


 左久夜が追い討ちをかけると、宗右真は大袈裟に息を吐き出した。


「好きだろ? あんこ」

「だから、あの時は、もらって来てくれたの?」

「誰も食わねえって言うから」

「ありがとう」


 左久夜は、芋ようかんを受け取った。が、宗右真は箱を掴んだまま、離さない。


「ソウちゃん?」

「……るかった」


 ぽつりと、宗右真がつぶやく。


「え?」

「この間は、悪かった。せっかく、見舞いに来てくれたのに、怒鳴ったりして」


 真面目な顔、改まった声で言うので、左久夜は思わず吹き出していた。


「何だよ」

「ソウちゃんって、たいてい、怒鳴ってるよ?」

「うるせぇ」

「やっぱり、ソウちゃん、優しい」

「何だよ、急に」


 宗右真が戸惑うように見た。

 左久夜は、まっすぐに宗右真を見つめ、「あのね」と、口を開く。病室での一件以来、考えていたことだった。きちんと、言わなくてはならない。このままじゃ、だめだと、ずっと思っていた。


「父様のことで、あたしが寝込んだのは、ソウちゃんのせいじゃない。別の理由があるの。ソウちゃんは無関係」

「は?」

「だから、ソウちゃんが責任を感じることなんかないし、父様の代わりをしなくてもいいの」

「お前、何言って、」


 宗右真が顔をしかめる。その不可解そうな顔に、左久夜は気づいていたが、一方的にしゃべり続けた。


「あたしは、もう、大丈夫だから」


 左久夜は、にっこりと笑って、箱を掴む宗右真の手を自分の手で包み込んだ。


「ソウちゃんこそ、自分を許してあげなきゃ。あたしはソウちゃんを恨んだりなんてしてない。母様も左希斗も、父様だって。誰も、ソウちゃんを責めたりしない。だから、自分を許してあげて。ね?」

「……」

「これ、ありがとう。じゃあ、帰るね」


 今度こそ、左久夜は芋ようかんを受け取って、宗右真に手を振った。



             3章 終



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