表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
2章 力と才能

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/30

緊急事態⁉

 どうやって、宗右真に謝ろう。

 左久夜は、朝から悩んでいた。昨日、『謝るのは明日にしよう』と先延ばしにしてしまったけれど。今日になったところで、すんなりといくものでもない。昨日のことは自分でもひどい八つ当たりだったと、自覚があるからなおさらだった。


 電話にするか。

 それとも、直接、家に行くか。


 顔を見て謝りたいという気持ちは、左久夜にもある。栄語の宿題を持って行けば、それなりの口実になるだろう。でも、どんな顔をして会いに行けばいいのか。

 かと言って、電話で謝るにしても、一方的に切られてしまう可能性だってある。


 どちらにも決められず、グダグダしているうちに、どんどん時間だけが経っていった。


 やっぱり、電話にしよう!

 左久夜は受話器を上げ、電話機にあるハンドルをぐるぐる回す。十回ほど回せば交換手が出て、相手方とつないでもらうのだが。

 ハンドルを何回か回したところで、息苦しくなってきて、ガチャンッと受話器を置いてしまった。


「…………はぁ」


 バクバクする胸を押さえ、左久夜は大きく息を吐く。

 深呼吸しては受話器を上げ、受話器を上げはまた下ろす。何度も何度も繰り返すが、なかなか決心がつかない。そんな時だった。木寅から電話があったのは。

 左久夜は、相談してみようと電話口に出た。


「サクちゃん、緊急事態だ!」


 その第一声で、吹き飛んでしまった。


「えっ? 何? どうしたの?」

「大変だ。今すぐ、ソーマの家に来てくれ!」


 木寅が早口で、まくし立てる。


「何かあったの?」

「とにかく、大変なんだよ! 急いでくれ!」


 詳しいことは何も言わず、そこで切れるものだから、不安がふくらむ。家を出る時には、気まずい思いは消えていた。


 左久夜は、宗右真の家まで急ぐ。通い慣れた道、五分ほど走れば、鱗屋根の洋館が見えてくる。この洋館に、宗右真は一人で住んでいた。

 勝手に中に入って、居間の扉を開ける。


「ト、トラちゃん。何がっ……」


 部屋に飛び込むと、木寅は軍服姿でソファーにどかっと座っていた。大きなあくびをしながら、のんびりと手を上げる。


「おっはよぉ〜」

「えぇっと?」


 左久夜は息を弾ませ、ぽかんと部屋を見回した。

 てっきり宗右真に、何かあったのだとばかり思っていた。しかし、本人は、こちらも制服のシャツのまま、絨毯の上で寝ている。

 むしろ大変なのは、部屋の状況だ。

 いつもは、この板の間も、そこそこきれいに片づけてあるのだが。 座卓は食後のまま、食器や空き瓶が置きっぱなし。左久夜の足元にも『大吟醸ダイギンジョウ あまのさけ』の一升瓶が転がっている有り様。


「どうしたの、これ?」

「ん? あぁ、昨日、二人で飲んで、えぇーと、結局、何時まで飲んでたんだっけなー?」


 木寅は、そこで二度目のあくびを挟んで、


「でな、サクちゃん。俺、もう帰らなくちゃいけなくてさー。ソーマの面倒よろしく」と、言った。


「え。何で、あたしが……」


 左久夜が今さらながら、口を尖らせれば、木寅はニヤニヤと笑う。


「そんなこと言っちゃって〜。ソーマに何かあったんじゃないかって、すっ飛んで来たくせに〜」


 それを見越して、電話であんなふうに言ったのだと左久夜は気がついた。こういう時、気心が知れている分、幼なじみというのはありがたくもあり、面倒くさくもある。

 左久夜が答えないでいると、木寅はまた笑った。


「ごめん、ごめん。でも、本当に俺も帰らなきゃならないんだよ。サヤ子たちを百貨店へ連れて行く約束でさ。だから頼むよ。ね?」


 そう頭を下げられたら、嫌とは言えなかった。

 木寅は宗右真をソファに引っ張り上げると、次は左久夜に分厚い本を差し出す。


「はい、これ。サクちゃんに、ちょうどいいと思うんだ。貸してやるよ」


 そう言われて、左久夜は反射的に手を伸ばしたものの、すぐに「えぇー」と、顔をしかめた。

 分厚い本の表紙は、栄語で書かれていた。題名の単語一つ読むのも、すんなりとはいかない。


「マ、マギ……カ、ロ? キャル?」

魔導石(マドーセキ)の研究論文だな」

「窓ぉ、席? 何それ?」


 初めて耳にする言葉は、頭の中でそう変換されてしまって、左久夜は首を傾げる。

 当然、木寅が説明してくれるものだと思っていたら。


「俺は、もう帰らなくちゃいけないから、中身はソーマに聞くといいよ」なんて、言うのだった。


 これもまた、木寅の作戦だろうかと、左久夜は思う。


「……分かった」


 左久夜は本を机に置いて、帰る木寅を玄関まで見送る。彼は上がり(カマチ)に腰を掛け、靴を履きながら、呼んだ。


「なぁ、サクちゃん」

「うん?」

「俺さー、サヤ子とカノ子が大事なんだよ。年がちょっと離れてるせいかな。あいつらが可愛いくって、仕方がないんだ」

「トラちゃん、甘いもんね」


 左久夜が笑うと、まあなと木寅も笑った。


「確かに俺も、甘やかしてる自覚はある。でもさー、妹は大事だろ。いつか、あいつらが嫁いで行っても、あいつらはずっと俺の妹で、困ってれば助けに行くと思う……でもさー、違うんだよ」


 うなり声を上げ始めた木寅に、左久夜は何かあったのかと首をかしげる。


「それを、《《アイツ》》、全然、分かってないんだよな」


 木寅は、ボソッと言って、うなだれた。こんなふうに、しょげている姿は珍しい。


(……兄妹きょうだいげんかでもしたのかな?)


 もしかしたら、相手はサヤ子かもしれない。普段は物静かな彼女だが、怒らせると、それはもう怖い。

 左久夜がそんなふうに思っている間にも、木寅は何やらぶつぶつ言っている。


「真面目な顔して、ぼろぼろにされてもいいとかさー。そう言うのは違うんだよ。妹相手に普通は、そんな感情、抱かないっての……ホント、バカだよなー」


 玄関のたたきに向かって、つぶやいた木寅は、最後に大きなため息をついた。

 と、一転。木寅が「あっ、そーだ」と左久夜を振り返る。


「ソーマのやつがさー、サクちゃんに『すけこまし』とか『色魔』って言われたのを、すっげー、気にしてるみたいだから、ほどほどにしてやってくれ」

「それは、つい……」


 言い淀んだ左久夜を、木寅は笑った。


「それと最後にもう一つ。ソーマはサクちゃんのこと、ちゃんと考えてるよ。ここだけの話、あいつはサクちゃんに、甘い。激甘なんだからな! まずは、あの栄語の本のこと、ソーマに聞いてみな」


 そう言い残して、木寅は帰って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ