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花は桜、愛でるべし〜女学生が初恋とお役目を全うするまで〜  作者: 倉桐ぱきぽ
2章 力と才能

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へっぽこの八つ当たり

 軍部に戻って来た左久夜は、部屋で宗右真を待っていた。報告書を渡して帰るはずが、宗右真は一向に現れない。


 ぼぅっとしているうちに、左久夜は先ほどの木寅の戦いぶりを思い出していた。


 討伐対象の小鬼(コオニ)は、この伊澄(イズミ)では、よく見かける魔物だ。人を襲うことは滅多にないものの、今回は、数十にも及ぶ群れで発見されたため、討伐対象となった。


 作戦通り、小鬼の群れは、木寅とその部隊によって討伐された。

 木寅は、一度にいくつもの式神シキガミを使う。

 八匹の柴犬に似た式神が、小鬼を追い込んで、殲滅させていく。それはまるで、バッタバッタと悪者を切り伏せる、剣劇を見ているようだった。


「……式神かぁ」


 木寅の式神は攻撃に特化したものだが、それ以外にも防御、伝令、偵察と用途は色々とある。一度、作り出しておけば、攻撃術のように一々、呪文を唱えなくてもいいのが利点。


 左久夜は、試しに式神を作る。

 呪文を唱えた直後、足元に小さな柴犬が現われた。が、すぐにその姿は揺らぎ、消えてしまった。


「当然だよね」


 術師としての能力が低いことは、自分でも分かっている。習得している術も、数種類。片手で足りる。力不足は否めない。

 せめて、もう少し、魔術が使えるようになりたかった。そうすれば、宗右真にも心配をかけずに済むかもしれない。


(それに、父様の敵討ちだって……)


 木寅に頼んで、教えてもらおうか。

 左久夜が考えていると、宗右真がやって来た。


「ご苦労さん」


 左久夜は、宗右真から書類を受け取り、続けて報告書を差し出す。そこで、ふと思いついた。

 木寅でなくたって、ぴったりの優秀な先生がここにもいるではないか。


「ソウちゃん。あのね、ご褒美の話なんだけど、」


 ちょっと図々しいかなと思いつつ、左久夜は切り出した。


「あぁ。明日、持ってってやる」


 左久夜の報告書を見たまま、宗右真は答えた。


「そうじゃなくて」

「何だ、いらねぇのか?」

「ご褒美って、どうせ、おまんじゅうか何かでしょ。だったら、その代わりに、術を教えて欲しいんだけど」

「術って、具体的に言え。攻撃、回復、結界、色々あるだろうが」

「式神」


 左久夜は言った。

 それまで報告書に目を向けながら、話をしていた宗右真だったが、そこで顔を上げて左久夜を見た。


「式神? お前が?」

「何で、そんなに驚くの」


 聞いた左久夜に、宗右真は大袈裟に息を吐き出す。


「お前には向いてねぇ」

「それは、やってみないと分からないじゃない」

「どうせ、さっきのトラを見て思いついたんだろうが。先に言っておく。お前がトラと同じように、できるわけがねぇからな」

「あたしだって、八匹は無理だって分かってるよ」

「当たり前だろ。あんな芸当、俺にだって無理だ。トラにしかできねぇよ」

「でも、一匹くらいなら」

「無理」


 少しも考えることなく、宗右真は言った。

 左久夜はそれにムッとしつつ、それでも食い下がる。


「だから、やってみないと分からないでしょ。とりあえず、教えてくれてもいいじゃない。それでできなかったら、あたしも諦める」


 左久夜は、お願いと手を合わせる。が、宗右真は再び、報告書に目を戻して言い放った。


「時間の無駄、体力の無駄、魔力の無駄」

「ソウちゃんのバカ」

「俺が馬鹿なら、お前は大馬鹿だ」

「何よっ!」


 口を尖らせる左久夜に、宗右真は、またも大きなため息をついた。


「いいか。お前の魔力を全部で百だとすると、鬼姫のエサ代に五十、呼び出して使役するのに四十。で、残りは十。前の時みたいに、風の術を使えば、それですっからかんだ。どこに、そんな余裕がある?」

「でも、攻撃術を使わなかったら、」

「トラの式神は、そりゃ、万能だが、一匹、作るのに魔力を四十くらい消費する。それは、あいつの魔力が、ケタ違いだからできることだ。何度も言うが、お前は魔力が足らねぇ。伝令や偵察用ならまだしも、十の魔力で作った式神が、討伐で役に立つわけねぇだろ。馬鹿」

「……」


 左久夜はぐっと奥歯をかみしめる。

 確かに、宗右真の言う通りなのだろう。そこは自分の勉強不足だった。でも、まるで自分が、役立たずだと否定されたように感じられて。


「分かった。もういい!」


 左久夜は、机の上に広げてあった荷物を、ドサッとかばんの中に放り込んだ。かばんと風呂敷包みを抱え、立ち上がる。


「サク」


 宗右真が呼んだのを無視して、左久夜は部屋を出た。  

 力一杯、扉を閉める。物に八つ当たりするなんて、子供っぽい。小さな子供が叱られて、すねているのと同じだ。分かっている。 分かっているのに、怒りは収まらない。


 ドスドスと玄関の広間まで来たところで、「サクちゃん」と、呼ばれた。


 ひらひらと手を振る木寅。


「今から帰るのか? ソーマは、一緒じゃないのか?」

「知らない」

「あー」


 木寅は、うなるようにつぶやいて、左久夜に肩を寄せる。そして、これまた小さな声で言った。


「ソーマと何かあったのか?」

「別に」

「いやいやいや。それさぁー、絶対、あったじゃん。思いっきり、ケンカしてんじゃん」

「……」

「んで、どうしたんだ?」


 左久夜は、ぽつりぽつりと、宗右真とのことを話した。

 自分に才能がないのは、分かっている。それでも努力すれば、練習を積めば、少しはましになるだろうと考えていた。

 かばんを持つ手に、ぎゅっと力が入る。


「もうちょっと強くなれたら、足手まといにならないで済むかなって思って……なのに、あたしには無理だって!」

「だからダメだって、ソーマは言ったのか?」

「でも、バカだって言った!」

「そっか、そっか」


 木寅はうなずいて、左久夜に笑った。いや、違う。木寅が笑ったのは、左久夜の後ろに向けてだった。


「あ〜、来た来た」  


 それで左久夜にも、後ろから聞こえて来る足音の正体が分かった。足音は、まっすぐこちらへ向かって来る。

 左久夜は、振り返らない。宗右真が右側に立ったのにも、左を向いて視界から排除する。


「桜」


 宗右真が呼んだ。


「あ、トラちゃん。話を聞いてくれて、ありがとう。じゃあね」


 左久夜は宗右真を無視して、木寅にだけ手を振ると、歩き出す。その後ろを、すかさず足音がついて来た。


「おい」

「……」

「おい、」

「ついて来ないで」

「お前なぁ」


 呆れたと言わんばかりの声。左久夜は、耐えられなくなって、宗右真を見た。


「ソウちゃんには、力も才能もない、あたしの気持ちなんか、分かんない!」


 つい、苛立ちをぶつけてしまったけど。言った途端、左久夜は後悔していた。

 才能がないことを分かっていながら、当主になったのは自分じゃないか。それを、宗右真に八つ当たりするのは違う。

 今のは自分が悪かった。謝らなくては……。

 頭では分かっているのに。


「あ……」


 のどの奥、『ごめんなさい』がつっかえて出てこない。自分が嫌になる。

 左久夜は泣きそうになって、風呂敷包みをぎゅうっと、抱きしめた。


「サク、」


 宗右真が何かを言う前に、左久夜はその場から走って逃げた。



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