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第94話:ポチの正体バレ? 〜チワワの尻尾は地獄の業火〜

 S区・相葉邸のリビング。

 銀条レイナによる「私を家具にしてください(住み込み家政婦志願)」という衝撃発言により、俺、相葉湊の思考はフリーズしていた。


「えっと、家具って……。人間は家具にはならないよね?」

「なります! 空気清浄機よりも空気を読み、ルンバよりも綺麗にし、セコムよりも鉄壁の守りを提供します!」


 レイナちゃんが真剣な眼差しで訴える。

 圧がすごい。

 どうやって断ろうか、あるいは警察ギルドに通報すべきか悩んでいると——。


 『ワンッ!』


 庭の方から、元気な鳴き声が聞こえた。


「あ、ポチ!」


 俺はハッとして、掃き出し窓を開けた。

 そこには、瓦礫の山となった庭から、トテトテと走ってくる黒い小さな影があった。

 愛犬のポチだ。


「生きてたかー! よかったぁ!」


 俺はサンダルを脱ぎ捨てて駆け寄り、ポチを抱き上げた。

 昨夜の「終焉の王」との戦いの最中、行方が分からなくなっていたのだ。

 雷(王の攻撃)に驚いて、どこかに隠れていたのだろう。


「怪我はないか? お腹空いてないか?」


 『クゥ〜ン……(主ヨ……不甲斐ナイ僕ヲ、許シテ……)』


 ポチは俺の腕の中で、すまなそうに身を小さくしている。

 体はすすで汚れているが、大きな怪我はないようだ。

 よかった。

 俺が巨人と戦っている間、怖かったんだろうな。


「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だぞ」


 俺はポチの頭をワシャワシャと撫でた。

 温かい。

 というか、ちょっと熱い。

 興奮して体温が上がっているのかな?


 『ワフッ!(主ノ手、温カイ……!)』


 ポチが嬉しそうに目を細め、ちぎれんばかりに尻尾を振り始めた。

 その瞬間だった。


 ボッ!!


 ポチの尻尾の先から、黒い炎のようなものが噴き出した。


「うわっ、熱っ!?」


 俺は反射的に手を引っ込めた。

 パチパチッ! という音と共に、俺の指先に痛みが走る。


「いってぇ……。なんだ今の?」


 俺は指先を見た。少し赤くなっている。

 そして、ポチの尻尾が当たったフローリングの床が、ジュッと音を立てて少し焦げていた。


「……静電気か?」


 俺は推測した。

 今日は空気が乾燥しているし、ポチは毛足が長いからな。

 さっきまで外を走り回っていた摩擦で、体に電気が溜まっていたのかもしれない。

 冬場のドアノブ並みの威力だったぞ。


「ポチ、お前帯電体質だなー。柔軟剤使ってシャンプーしてやるか」


 俺は苦笑いしながら、またポチを撫でた。

 ポチは「?」という顔をしながらも、嬉しそうに喉を鳴らしている。


 ——だが。

 その光景を見ていた「外野」の反応は、劇的だった。


 ◇ ◇ ◇


 ——リビングの入り口。


 銀条レイナ、そして総理の護衛を終えて戻ってきたジャック・バーンと剛田猛の三人は、戦慄していた。


 彼らは見たのだ。

 湊が「静電気」と呼んだものの正体を。


「Hey... Did you see that?(おい……今のアレ、見たか?)」


 ジャックがサングラスをずらし、震える声で囁く。


「Yes. That was... Hellfire.(ああ。あれは……地獄の業火ヘル・ファイアだ)」


 ポチの尻尾から漏れ出た黒い炎。

 それは、ただの火ではない。

 触れた物質の「存在」を焼き尽くす、冥界の魔炎だ。

 本来なら、家一軒が灰になってもおかしくない熱量。


「それを……師匠は『静電気』の一言で済ませたわ」


 レイナがごくりと唾を飲み込む。

 湊の手は無事だ。

 冥界の炎に触れて、「熱っ」で済む皮膚強度。

 やはり、この主従は規格外すぎる。


 そして、剛田があることに気づき、小さな悲鳴を上げた。


「お、おい! あの犬の影! 影を見ろ!」


 リビングの床に落ちるポチの影。

 本体は可愛らしいチワワの姿をしているが、影だけは——三つの首を持ち、牙を剥く巨獣の形をしていた。


「……ケルベロス」


 三人は同時に悟った。

 昨夜、終焉の王に立ち向かい、敗れはしたものの時間を稼いだあの黒い巨獣。

 その正体が、この愛玩動物ポチだったのだ。


「し、信じられん……。神話級の魔獣を、室内飼いしているのか!?」

「しかも、あんなに腹を見せて甘えている……」

「完全に『忠犬』じゃねぇか……」


 絶対的な主従関係。

 Sランクの魔物をデコピンで消す主人と、神話級の魔獣すら番犬にする主人。

 この家におけるヒエラルキーの頂点が誰であるか、疑う余地もなかった。


 『グルルッ……』


 ポチが、ふと三人の方を向いた。

 みなとに撫でられている時はデレデレの顔だったが、レイナたちを見た瞬間、その金色の瞳が冷酷な捕食者のものに変わる。


 『(見タナ? バラシタラ……食ウゾ)』


 無言の圧力。

 三人は直立不動で首を横に振った。

 「言いません! 貴方がただの可愛いチワワであること以外、何も見てません!」


 『ワンッ(ヨシ)』


 ポチは満足げに鼻を鳴らし、再び湊の腕の中で丸くなった。


 ◇ ◇ ◇


 ——湊の視点。


「ん? みんな、どうしたの? 顔色が悪いけど」


 俺はポチを床に降ろし、レイナちゃんたちに声をかけた。

 三人とも、壁際にへばりついてガタガタ震えている。

 やっぱり、昨夜の疲れが残っているのかな。


「い、いいえ! なんでもありません!」

「Cute dog! Very cute!(かわいい犬だ! とてもかわいい!)」

「チワワ最高っすね!!」


 みんなが口々にポチを褒めてくれる。

 俺は鼻高々だ。

 やっぱり、うのポチは世界一可愛いな。


「そうだ。お詫びとお礼も兼ねて、みんなにご馳走するよ」


 俺は提案した。

 世界を救う(俺の家を守る)ために頑張ってくれた彼らに、何か振る舞いたい。

 ちょうど、いい食材が手に入ったところだし。


「庭にさ、すごい『肉』が落ちてたんだよ」


「……肉、ですか?」


「うん。昨日の巨人が置いていったのかな? 真っ黒で、すごく脂が乗ってるやつ」


 俺はキッチンの冷蔵庫(電気復旧済み)から、巨大な肉のブロックを取り出した。

 それは、俺がスリッパで粉砕した終焉の王の——「尻尾」の一部が、高濃度の魔力で結晶化し、最高級の食肉(霜降り)へと変質したものだ。


 【終焉の尾肉テイル・ミート

 【ランク:神話級食材(GOD EATER)】

 【効果:一口食べれば全ステータス永続+1000】


 それを見た瞬間、レイナたちの顔色がさらに青ざめた。


「そ、それを……食べるのですか? 神の肉を?」

「うん。すき焼きにしようと思って」


 俺は包丁を取り出した。

 今日は祝勝会だ。

 肉を食って、コーラを飲んで、パーっとやろう。


「さあ、準備手伝って! レイナちゃんはネギ切って!」


 最強の引きこもりが主催する、人類史上最も贅沢で、最も恐ろしい「闇鍋パーティ」が始まろうとしていた。

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