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第70話:友情のシェイクハンド 〜世界を救った後のピザは冷めている〜

 【MATCH FINISHED】


 画面にリザルトが表示される。

 俺、相葉湊と、アメリカの友人ジャック・バーンのペアは、見事に連勝を重ねていた。


「ふぅ……。今日はこのくらいにしておくか」


 俺はヘッドセットのマイク位置を直した。

 時刻はもう明け方近い。

 さすがに眠くなってきたし、指も疲れた。


「ジャック、そろそろ落ちるよ。今日はサンキューな!」


『Wait, Master.(待ってくれ、師匠)』


 ジャックさんが呼び止める。

 その声は、戦闘中(ゲーム中)の興奮とは打って変わり、厳粛な響きを帯びていた。


『Thank you for saving the world... again.(世界を救ってくれて……ありがとう。またしても)』


「ん? ああ、ランクのこと?」


 俺は笑った。

 確かに、さっきの連敗でランクが落ちそうだったところを、連勝で盛り返したからな。

 ゲーマーにとって、ランクの維持は世界の存亡と同じくらい大事だ。


「お互い様だよ。ジャックさんのカバーのおかげで助かった」


『No... You did it alone. With a "Futon Beater".(いや……あんた一人でやったんだ。布団叩きで)』


 ジャックさんが感極まったように鼻をすする音が聞こえる。

 布団叩き、そんなに気に入ったのかな。

 今度会ったら100均で買ってプレゼントしてあげよう。


『You are my hero. Good night, Legend.(あんたは俺のヒーローだ。おやすみ、レジェンド)』


「大げさだなぁ。おやすみ、ジャック!」


 プツン。

 通話が切れる。


 俺はPCをシャットダウンした。

 ブゥゥゥン……とファンの音が消え、部屋に静寂が戻る。


「……静かだ」


 俺は椅子を回し、窓の外を見た。

 空が白み始めている。

 昨夜の騒動——雷とか、黒い土砂崩れ(ギガ・スライム)とか、デカい不審者(巨人)とか——が嘘のように、S区の朝は穏やかだった。


「結局、あれなんだったんだろうな」


 俺はデスクの横に置いた戦利品、『終焉の核アポカリプス・コア』を突っついた。

 黒くて硬い結晶体。

 見ていると吸い込まれそうな深い色をしている。


「ま、綺麗な石だし、漬物石にでもするか」


 俺はあくびを噛み殺し、リビングへ向かった。

 小腹が空いた。

 テーブルの上には、昨夜食べ残したピザが冷え切って置いてある。


「冷めたピザ……。これはこれで美味いんだよな」


 俺は一切れを口に運び、咀嚼した。

 硬くなったチーズと、塩辛いサラミの味。

 戦いの後の身体に染み渡る。


「アリス、ポチ。おやすみ」


 棚の上でスリープモードに入っているアリスと、床で丸くなっているポチ(昨夜のブレス連発で疲労困憊)に声をかけ、俺は寝室へと向かった。


 世界を滅亡の淵から救い出した英雄は、歯を磨き、パジャマに着替え、泥のように眠りについた。


 ◇ ◇ ◇


 ——数時間後。午前九時。


 バラバラバラバラ……!!


 重苦しいヘリコプターの回転音が、S区の空気を震わせていた。

 一機ではない。三機、四機。

 さらに、地上からは重厚なエンジン音が響いてくる。


 S区の聖域ゲート前。

 そこには、異様な光景が広がっていた。


 黒塗りの高級セダンが数台。

 前後を護衛する装甲車。

 そして、上空を警戒する自衛隊の戦闘ヘリ。


 車列の中心にある一台のリムジンから、一人の男が降り立った。

 白髪混じりの髪を整え、仕立ての良いスーツを着た初老の男性。

 その顔は、日本国民なら誰もが知っている。


 内閣総理大臣・御子柴みこしばである。


「……ここが、特異点の中心地か」


 総理は、目の前にそびえる黒いフェンスと、その奥にある古びた一軒家を見上げた。

 昨夜、アメリカ大統領から直通のホットラインが入ったのだ。


 『日本のS区で、神話級のエネルギー反応が消失した。君の国の「サムライ」が、世界を救ったようだ』


 報告によれば、この家に住む青年が、プラスチックの棒一本で地球規模の災厄を消し去ったという。

 もはや、放置できるレベルではない。

 一歩間違えれば、日本という国そのものが彼の機嫌一つで消滅しかねないのだ。


「総理、危険です! これ以上近づいては……!」


 SPが制止しようとするが、総理は首を振った。


「行かねばならん。一国の長として、彼に礼を……いや、仁義を切りにな」


 総理は覚悟を決めていた。

 彼を敵に回せば終わり。ならば、国を挙げて彼を「待遇」するしかない。

 これは外交ではない。神への参拝だ。


 総理は側近を連れ、S区の廃墟を踏みしめて進んだ。

 目指すは、相葉邸の玄関。


 ◇ ◇ ◇


 ——家の中。


「んぅ……うるさいなぁ……」


 俺は、騒音で目を覚ました。

 ヘリの音だ。

 工事は終わったはずなのに、まだ何かやってるのか?


「……眠い」


 昨夜は遅くまでゲームをしていたせいで、まだ眠気が残っている。

 俺はフラフラと起き上がり、カーテンの隙間から外を覗いた。


「うわっ」


 目が覚めた。

 家の前に、黒いスーツの人たちがびっしりと並んでいる。

 その中心にいるのは、テレビで見たことのある偉そうな人。


「そ、総理大臣……!?」


 俺はパニックになった。

 なんで? なんで総理がうちの前に?

 選挙活動? こんな廃墟で?


 いや、違う。彼らの視線は、明らかにこの家に向いている。


「ま、まさか……」


 俺の脳裏に、昨夜の出来事が蘇る。

 布団叩きで、黒い巨人を叩いたこと。

 その時の衝撃音。

 そして、「うるせぇ!」と怒鳴り散らしたこと。


「……騒音トラブルだ」


 俺は顔面蒼白になった。

 近所迷惑だと言って暴れた俺が、逆に近所迷惑で通報されたんだ。

 しかも、相手が巨人(たぶん外国の要人とか?)だったから、国際問題になって総理が出てきたのか?


「やばい。怒られる。逮捕される」


 俺はガタガタと震えた。

 引きこもりが総理大臣に説教されるなんて、前代未聞だ。

 どうする? 逃げるか?

 いや、囲まれている。


 ピンポーン。


 無慈悲なチャイムが鳴った。

 日本のトップが、玄関の前に立っている。


「……い、居留守だ!!」


 俺は即断した。

 布団を頭から被り、息を潜める。

 いないフリをすれば、きっと帰ってくれるはずだ。

 公務で忙しい人だろうし。


 ——だが、俺は知らなかった。

 総理が持参した「手土産」が、俺の喉から手が出るほど欲しい『アレ』であることを。


 最強の引きこもりVS日本国総理大臣。

 ドア一枚を隔てた、歴史的会談コントが始まろうとしていた。

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