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第63話:道場破り、襲来……ではなく? 〜その紙袋、核弾頭入り〜

 S区・相葉邸の玄関前。

 インターホンを鳴らした金髪の男は、サングラスの奥で滝のような冷や汗を流していた。


(Oh my god... What is this pressure...!?)


 彼の名はスティーブ。

 アメリカ探索者協会・特殊工作員の精鋭であり、Sランク探索者ジャック・バーンの側近中の側近だ。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼だが、この家の前に立った瞬間、本能が「回れ右」を命じていた。


 重厚な鉄の扉。

 その隙間から漏れ出る、致死レベルの濃密な魔素。

 そして何より、庭の犬小屋からこちらを睨んでいる「可愛いチワワ(ケルベロス)」のプレッシャー。


Bossジャックは、こんな場所で戦ったのか……正気じゃない)


 だが、任務は遂行しなければならない。

 スティーブは震える手で、持参した派手な紙袋を握りしめた。


 ガチャリ。


 扉が開く。

 現れたのは、灰色のジャージを着た、どこにでもいそうな日本の青年。

 だが、スティーブには分かっていた。

 この男こそが、素手でSランクモンスターを躾け、掃除機で聖剣を吸い込んだ「生ける伝説リビング・レジェンド」であると。


「ハロー? ドゥー・ユー・ニード・ヘルプ?」


 青年——相葉湊が、スマホの翻訳アプリを片手に話しかけてきた。

 無防備な立ち姿。

 だが、隙がなさすぎて、どこから攻撃しても返り討ちに遭う未来しか見えない。


「……M-Master Minato!」


 スティーブは、直立不動で最敬礼をした。

 そして、流暢な(猛勉強した)日本語で叫んだ。


「私は、ジャック・バーンの使いで参りました! これを!」


 スティーブは紙袋を突き出した。


 ◇ ◇ ◇


 ——湊の視点。


「おぉ、日本語ペラペラだ」


 俺は安心した。

 どうやら、昨日の今日でジャックさんがわざわざ使いを寄越してくれたらしい。

 律儀な人だなぁ。


「ジャックさんから? なんだろう、忘れ物かな?」


 俺は紙袋を受け取った。

 ずしりと重い。

 中を覗くと、厳重に梱包された箱が入っている。


「……『NY名物』?」


 俺は勝手に解釈した。

 交流戦のお礼か何かだろう。

 チーズケーキとか、ブラウニーとかかな?


「サンキュー! わざわざ悪いね」


 俺が笑顔で受け取ると、使いのスティーブさんは、なぜか感動したように胸を押さえていた。


「受け取って……いただけるのですか……!?」

「え? うん。甘いもの好きなんで」


 俺の言葉に、スティーブさんの顔が引きつる。

 甘いもの?

 まあ、アメリカのお菓子は甘すぎるって言うし、気を使ってるのかな。


「あ、そうだ。ジャックさんは元気?」


 俺が聞くと、スティーブさんは神妙な顔つきになった。

 そして、懐から一枚のメモを取り出し、読み上げた。


「ボスからの伝言です。『The End is coming.(終わりが来る)』」

「『I'll bring the big guns.(俺が最大火力を持ち込む)』」

「『Wait for the party.(パーティの準備をして待て)』……以上です」


「…………」


 俺は数秒考え込み、ポンと手を打った。


(なるほど! ゲームの話か!)


 『終わりが来る』→ ゲーム内のシーズン終了が近い。

 『最大火力』→ 新武器のロケットランチャーを手に入れた。

 『パーティ』→ チームを組んでランクマッチに行こう。


 完全に理解した。

 さすがジャックさん、やる気満々だ。


「オーケー! 分かったよ!」


 俺はスティーブさんの肩をポンと叩いた。


「伝えておいて。『いつでも待ってる。装備整えて待機してるから』って」


「ッ!! は、はいっ!!」


 スティーブさんは、涙目になって何度も頷いた。

 そして、「Good luck...」と言い残し、逃げるように去っていった。

 忙しい人だなぁ。


 ◇ ◇ ◇


 リビングに戻った俺は、早速お土産を開封することにした。


「さてさて、本場のスイーツはどんなもんかな?」


 箱を開ける。

 中に入っていたのは——。


「……ん? なんだこれ」


 俺は首を傾げた。

 お菓子じゃない。

 そこに入っていたのは、握り拳大の、赤黒く脈打つ「心臓」のような宝石と、古びた羊皮紙の束だった。


 宝石からは、見ているだけで肌がヒリヒリするような熱気が漂っている。


「……インテリアか?」


 俺は宝石を手に取った。

 ほんのり温かい。

 冬場にカイロ代わりに良さそうだ。


 実はこれ、アメリカのダンジョン最深部で発見された国宝級アーティファクト『火龍の心臓ドラゴン・ハート』。

 半径数キロを焦土に変える魔力を秘めた、戦略級爆弾である。

 ジャックは「対・終焉の王」用の弾薬として、これを湊に託したのだ。


「ま、綺麗だから飾っておくか」


 俺はそれを、無造作にテレビの横に置いた。

 そして、羊皮紙の方を見る。

 何やら魔法陣のようなものが描かれている。


「こっちは……ポスター?」


 おしゃれな英字新聞みたいなデザインだ。

 これも壁に貼っておこう。

 (※禁呪『メテオ・ストライク』のスクロールです。読むだけで隕石が落ちます)


「ジャックさん、センスいいなぁ」


 俺は満足した。

 部屋がどんどん多国籍な感じになっていく。


 その時。

 窓の外で、再び地鳴りが響いた。


 ズズズズズ……ッ!!


「お、また揺れた」


 アリスが、不安そうに俺の袖を引っ張る。

 ポチも、窓際で唸り声を上げている。


「大丈夫大丈夫。ちょっと工事が長引いてるだけだよ」


 俺はアリスの頭を撫でて安心させた。

 外のフェンス工事、まだ終わってないのかな?

 ずいぶん大規模にやってるみたいだ。


「さて、ゲームしよ」


 俺はジャックさんの参戦オンラインを待ちながら、PCに向かった。


 ——俺は知らない。

 俺が「インテリア」として飾った『火龍の心臓』が、部屋の魔素を吸収して輝きを増し、家の結界強度をさらに跳ね上げていることを。


 そして、その結界の外側で、世界を飲み込もうとする「闇」が、いよいよ実体化しようとしていることを。


 『……オ……オオ……』


 S区の地下深く。

 先ほど湊にはたかれた「終焉の王」が、屈辱に震えながら、真の姿で地上に出る準備を整えていた。


 『次ハ……手デハ……ナイ……』

 『我ガ……全身全霊ヲ……以テ……』


 ラスボス、再臨まであとわずか。

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