第50話:【掲示板回】『【速報】レイナちゃんの次回配信に「あの師匠」が降臨!?』
その告知が世界を駆け巡ったのは、湊が「配信に出る」と決断してからわずか数時間後のことだった。
銀条レイナの公式SNSアカウント。
フォロワー数500万人を超える彼女が、一枚の画像を投稿したのだ。
『【重大告知】』
『明日の20:00より、緊急ダンジョン配信を行います!』
『今回は特別ゲストとして、私の剣の師匠であり、命の恩人でもある「あの方」をお招きします! 伝説の瞬間をお見逃しなく!』
この投稿は、瞬く間に数万リポストされ、インターネットという名の海に巨大な爆弾として投下された。
◇ ◇ ◇
巨大匿名掲示板『ダンジョンちゃんねる』
【S区】銀条レイナの師匠降臨!? 待機スレ Part15
1:名無しの探索者
おい、マジかよ。
レイナちゃんの師匠って、まさか……。
2:名無しの探索者
タイミング的に間違いねぇだろ。
例の「ジャージの悪魔」だ。
3:名無しの探索者
キタァァァァァァァァッ!!
ついにあの男がメディアに出るのか!?
4:名無しの探索者
S区の魔王がついに動くぞ。
全裸集団を浄化して、山をサンダルで消し飛ばしたあの男が。
5:名無しの探索者
ギルドとか政府は許可したのか?
あいつ、国家機密レベルの存在だろ。
6:名無しの探索者
>>5
許可も何も、あいつに命令できる人間なんて地球上にいねぇよ。
本人が「出る」って言ったら、総理大臣でも止められん。
7:名無しの探索者
どんな顔なんだろうな。
隠し撮り写真は出回ってるけど、遠目だったし。
意外とイケメンなのか、それとも鬼のような形相なのか。
8:名無しの探索者
俺の予想。
全身から後光が差してて、カメラのホワイトバランスが壊れる。
9:名無しの探索者
>>8
ありそうwww
あと、「言葉を発しただけでサーバーが落ちる」に一票。
10:海外の探索者
Wait. Is this true?
The "S-Ward Devil" is coming?
(待て。これ本当か? S区の悪魔が来るのか?)
11:名無しの探索者
うわ、海外ニキまで来てるぞ。
これ同接(同時接続数)ヤバいことになるんじゃね?
12:名無しの探索者
D-Tubeのサーバー、耐えられるかな……。
スパチャの総額でギネス更新しそう。
13:名無しの探索者
みんな、正座して待機だ。
明日の夜、歴史が変わるぞ。
……ネット上の盛り上がりは、留まるところを知らなかった。
探索者オタクも、一般人も、海外のファンも、そして各国の情報機関さえもが、固唾を飲んで「その時」を待っていた。
◇ ◇ ◇
そして、配信当日。夜19時50分。
S区・相葉邸のリビング。
「……ふぅ。緊張してきた」
俺、相葉湊は、テーブルの上に置かれた「小道具」を見つめて深呼吸していた。
いよいよだ。
あと十分で、俺の配信デビュー(お小遣い稼ぎ)が始まる。
「師匠、準備はよろしいですか?」
レイナちゃんが、テキパキと機材のセッティングをしている。
今日は動きやすいジャージ(俺の予備を貸してあげた)姿だが、その表情は真剣そのものだ。
「うん。こっちの準備も完了だ」
俺は、手元にあった「茶色い紙袋」を手に取った。
ハンバーガー屋のテイクアウト用の袋だ。
そこに、ハサミで目の穴を二つ開け、黒マジックで大きく『へのへのもへじ』を描き込んである。
制作時間、三分。
制作費、〇円。
「……師匠」
レイナちゃんが、その紙袋を見て感動に震えている。
「あえて、そこらにある紙袋を選ぶそのセンス……! 『外見に惑わされるな、本質を見よ』という、世間へのアンチテーゼですね! 痺れます!」
「い、いや、単に仮面買うお金がなかっただけで……」
まあいいや。
俺は紙袋を頭からすっぽりと被った。
ガサガサという音と共に、視界が狭まる。
目の穴の位置は……うん、バッチリだ。
「よし。これなら誰にもバレない」
鏡を見る。
そこには、灰色のジャージを着て、頭に落書きされた紙袋を被った、完全なる不審者が映っていた。
「完璧だ(色んな意味で)」
俺はガッツポーズをした。
これなら、対人恐怖症の俺でも喋れる気がする。
顔が見えないって素晴らしい。
「では、庭へ移動しましょう! ドローンカメラ、起動します!」
◇ ◇ ◇
20時00分。
S区の庭——世間一般で言うところの「S級ダンジョン深層エリア」。
レイナの配信チャンネルには、開始前から既に同接150万人という異常な数の視聴者が集まっていた。
コメント欄は滝のように流れ、スパチャの待機画面が虹色に輝いている。
『wktk』
『全裸待機』
『歴史的瞬間』
『来たぞ!』
画面が切り替わる。
映し出されたのは、鬱蒼とした夜の森。
そして、その中央に佇む——紙袋を被ったジャージの男。
……一瞬、コメントが止まった。
『……は?』
『え?』
『紙袋?』
『不審者じゃねーか!!』
『へのへのもへじwww』
『放送事故か?』
世界中が「!?」となった瞬間。
紙袋の男が、マイクに向かって口を開いた。
ボイスチェンジャーで変えられた、間の抜けた高い声で。
「あー、あー。テステス。……これ、声入ってます?」
その軽すぎる第一声が、世界中に響き渡る。
最強の引きこもりによる、最初で最後の(はずの)お小遣い稼ぎ配信。
伝説と黒歴史が入り混じる狂乱の宴が、今、幕を開けた。




