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第41話:庭に入った時点で詰んでいた 〜その芝生、Sランクにつき〜

 ズガガガガガッ!!


 悪徳ギルド『蛇の牙』の構成員たちが放つ魔導ライフルの銃弾が、闇夜を切り裂いた。

 彼らが狙うのは、S区の最深部に佇む一軒家ではない。

 その手前にある——「庭」だ。


「おい、どうなってんだ!? 進めねぇぞ!」

「草が……! 草が硬ぇッ!!」


 先頭を進んでいた部隊から、悲鳴に近い報告が上がる。

 彼らの足元を阻んでいるのは、湊が「最近、芝生がチクチクして痛いな」と思っていた庭の雑草たち。


 その正体は、『ニードルグラス(魔界針草)』。

 鋼鉄よりも硬く、踏んだ者の体重を感知して鋭利な棘を伸ばす、Sランクの自律型植物兵器だ。


「クソッ! たかが雑草だろ! ナタで切り払え!」


 幹部の一人が叫び、魔剣を振るう。

 Aランク相当の切れ味を誇る剣が、緑の葉に食い込む。


 ガギィンッ!!


 甲高い金属音が響き、魔剣の方が真っ二つに折れた。


「は……?」


 幹部が呆然とする間に、ニードルグラスがシュルリと動き、彼の足首に巻き付いた。


「うわっ!? 離せ! なんだこりゃ!?」


 ズブブブブッ!!


「ぎゃあああああああああっ!!」


 無数の棘がブーツを貫通し、肉に食い込む。

 幹部は白目を剥いて倒れた。

 だが、倒れた先もまた、針のむしろだ。

 全身を串刺しにされ、彼はピクリとも動かなくなった(※即効性のある麻痺毒により麻痺しただけだが、見た目は死体だ)。


「ひっ、ひいいいッ!?」

「退け! 退却だァ!!」


 後続の部隊がパニックに陥り、背を向ける。

 だが、S区のダンジョンは、一度招き入れた獲物を逃がすほど甘くはない。


 ガササササッ……!


 背後の退路——かつて門があった場所が、いつの間にか極太のツタによって封鎖されていた。

 高さ三メートルの緑の壁。

 『アイアン・アイビー(鉄壁蔦)』が、逃走ルートを完全に遮断していたのだ。


「か、囲まれた……!?」

「ここは庭じゃねぇ……処刑場だッ!!」


 混乱する悪党たちに、さらなる追撃が襲いかかる。


 庭木として植えられていた『人食い柳』が枝を鞭のようにしならせ、武装した男たちを空中に吊り上げる。

 可愛らしい花壇の『スリープフラワー』が、吸い込んだら三日は起きない強力な催眠花粉を噴射する。


 阿鼻叫喚。

 地獄絵図。

 最新鋭の装備で固めたはずの精鋭五十名が、たった数分で半壊した。


「ええい、どいつもこいつも役立たずが!!」


 その混乱の中を、リーダーの木戸だけが強引に突き進んでいた。

 彼は部下を盾にし、魔剣を振るって蔦を弾き、なんとか玄関の近くまでたどり着いていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……!」


 木戸の全身は傷だらけだ。

 自慢のスーツはボロボロで、プライドもズタズタだ。


「なんなんだ、この家は……! 要塞か!? 魔王城か!?」


 ただの一般人の家だと思っていた。

 だが、現実は違った。

 庭木一本一本が、Sランクモンスター級の戦闘力を持っている。


「だが……抜けたぞ!」


 木戸は目の前を見た。

 植物の猛攻が止んだ場所。

 そこは、玄関前のポーチだ。

 コンクリートで舗装されたその場所だけは、安全地帯のように静まり返っている。


「へっ、へへへ……! ここまで来ればこっちのもんだ!」


 木戸は勝利を確信した。

 後ろを振り返れば、部下たちは全滅しているが、そんなことはどうでもいい。

 自分さえ生き残り、この家の宝を独り占めできれば、それでいいのだ。


「待ってろよ、相葉湊……! この借りは、テメェの命と財産で支払わせてやる!」


 木戸は魔剣を構え直し、ポーチへと足を踏み入れた。

 玄関ドアまで、あと五メートル。


 ——だが。

 その五メートルに、最強の番人が待ち構えていることに、彼はまだ気づいていなかった。


 玄関の横。

 粗末な木製の犬小屋。

 そこに書かれた『ポチ』という可愛い表札。


 その暗がりから、二つの——いや、六つの金色の瞳が、ゆらりと浮かび上がった。


『グルルルル……』


 地響きのような唸り声。

 木戸の足が止まる。


「あ? なんだ……犬か?」


 木戸は目を凝らした。

 暗くてよく見えないが、小型犬のようだ。

 偵察ドローンの映像で見た、あのチワワだろう。


「ケッ! 脅かしやがって! 植物の次は駄犬かよ!」


 木戸は嘲笑った。

 ここまで来て、最後に出てくるのがチワワとは。

 緊張感が抜ける。


「どけ! 蹴り殺されたくなかったらな!」


 木戸は威嚇のために、足元の小石を犬小屋に向かって蹴り飛ばした。


 カツン。


 小石が犬小屋に当たる。

 乾いた音が響く。


 ——瞬間。

 世界の空気が変わった。


 ドォォォン!!


 犬小屋が内側から爆散した。

 木片が飛び散り、漆黒の闇が噴き出す。


「な、なにッ!?」


 木戸が後ずさる。

 噴き出した闇は、凝縮し、形を成していく。

 チワワではない。

 そんな生易しいものではない。


 体高五メートル。

 燃え盛る黒炎を纏い、三つの首を持つ、神話の魔獣。


 【冥界の番犬ケルベロス


『ガアアアアアアッ!!(我ガ主ノ庭ヲ汚ス、不届き者メ)』


 三つの首が同時に咆哮した。

 その衝撃波だけで、木戸の持っていた魔剣にヒビが入る。


「ひ……ひぃッ……!?」


 木戸は腰を抜かしてへたり込んだ。

 理解が追いつかない。

 なぜ、こんな所に神話級の怪物がいる?

 しかも、首輪をつけて?


『遊ンデヤル。死ヌマデナ』


 真ん中の首が、ニヤリと笑ったように見えた。

 木戸の視界が、絶望の黒に染まっていく。


 ——その頃。

 家の中、脱衣所。


「ふぃ〜。いいお湯だった」


 俺、相葉湊は、風呂上がりの牛乳を腰に手を当てて飲んでいた。

 肌はツヤツヤ、気分は爽快だ。


「ん? なんか外、うるさいな」


 ドカァァン! ギャイン! という音が聞こえる。

 まるで怪獣映画のSEみたいだ。


「ポチが野良犬と喧嘩でもしてるのかな?」


 俺は首を傾げた。

 元気なのはいいけど、近所迷惑になるのは困る。

 あと、ピザ屋さんが来たら怖がっちゃうしな。


「ちょっと見てくるか」


 俺は腰にバスタオルを巻き、頭に手ぬぐいを乗せたまま、玄関へと向かった。

 手には、魔除けのお守りとして洗面所に置いてあった「盛り塩」の小皿を持って。


「コラ、ポチ! 静かにしなさい!」


 最強の家主が、ついに玄関のドアを開ける。

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>即死毒による麻痺で気絶 即死毒なのに麻痺?そして麻痺じゃなくて気絶?
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