第39話:襲撃前夜 〜神の寝床に突撃〜
午後八時。
S区の結界境界線付近。
闇夜に紛れ、不穏なエンジン音と、男たちの怒号が響き渡っていた。
「おい、遅れるんじゃねぇぞ! 隊列を崩すな!」
「魔導障壁展開! 全車、戦闘態勢!」
悪徳ギルド『蛇の牙』が誇る、総勢五十名の精鋭部隊。
彼らは違法改造された装甲車三台と、十数台のバイクに分乗し、S区への侵攻を開始しようとしていた。
先頭車両のルーフから、リーダーの木戸が身を乗り出す。
手には拡声器。目は血走っている。
「野郎ども、よく聞けェ!!」
木戸のダミ声が夜の廃墟にこだまする。
「相手はたった一人の男だ! だが、油断はするな。奴はS区の管理人……何かしらの罠や、遺産を持っているかもしれねぇ!」
「だが、所詮は素人だ! 俺たちの火力と数で押し潰せば、蟻のようにプチッと潰れる!」
「「「オオオオオオオッ!!」」」
構成員たちが武器を掲げ、野獣のような雄叫びを上げる。
彼らの装備は、裏ルートで仕入れた強力な魔剣や、魔弾ライフルだ。
これだけの戦力があれば、小規模なダンジョンなら一日で制圧できる。
「狙うは『古龍の牙』! 『世界樹の葉』! そして『S級魔石』!」
「奪え! 殺せ! S区の富を、俺たち『蛇の牙』が総取りするんだよォ!!」
強欲の行進。
彼らはアクセルを吹かし、境界線の有刺鉄線を踏み潰してS区へと雪崩れ込んだ。
——自分たちが踏み入れた場所が、虎の尾どころか、「神の寝床」であるとも知らずに。
◇ ◇ ◇
その頃。
インターネットの巨大掲示板『ダンジョンちゃんねる』では、とあるスレッドが静かに盛り上がっていた。
【速報】悪名高い『蛇の牙』がフル装備でS区に向かった件
1:名無しの探索者
検問所の近くにいたんだが、蛇の牙の連中が大挙してS区に入っていったぞ。
装甲車まで持ち出して、戦争でも始める気か?
2:名無しの探索者
うわぁ、あいつらまだ懲りてないのか。
S区って、今は「あの人」の縄張りだろ?
3:名無しの探索者
>>2
「ジャージの悪魔」な。
デコピンでオーガ消して、サンダルで山を消したあいつ。
4:名無しの探索者
蛇の牙、情報弱者すぎんか?
あの動画見てないのかよ。
5:情報屋
裏の話だと、あいつら「ジャージ男はただの管理人で、運がいいだけの一般人」って思い込んでるらしいぜ。
宝を隠し持ってるとか勘違いして、強盗する気満々だとか。
6:名無しの探索者
>>5
死亡フラグ建築士かよwww
全滅する未来しか見えねぇ。
7:名無しの探索者
一般人(Sランク魔物をワンパン)
運がいい(近づく魔物が勝手に道を開ける)
うん、間違ってはいない……のか?
8:名無しの探索者
とりあえず、明日のニュースは「S区で謎の集団失踪事件」だな。
南無。
ネット民たちは、ポップコーン片手に彼らの破滅を予言していた。
誰も止めようとはしない。
彼らは知っているのだ。S区の深淵に触れた者が、どうなるかを。
◇ ◇ ◇
一方、S区最深部・相葉邸。
外の喧騒などどこ吹く風。
家主の相葉湊は、鼻歌交じりに脱衣所にいた。
「ふふ〜ん♪ ピザが届くまで、ひとっ風呂浴びるかぁ」
今日は大掃除もしたし、結構汗をかいた。
美味しいピザを万全の状態で迎えるために、身を清めるのは礼儀だ。
湊はバスタオルを用意し、浴室のドアを開けた。
湯船には、なみなみとお湯が張られている。
だが、ただのお湯ではない。




