第35話:リサイクル業者という名のハイエナ 〜そのピザ、S級につき〜
東京都の地下深くに広がる、裏社会の闇市。
その一角にある薄暗い倉庫で、男の下卑た笑い声が響いていた。
「ククク……! 本物だ。間違いねぇ、本物の『古龍の牙』だ!」
男の名は木戸。
悪徳ギルド『蛇の牙』のリーダーであり、法を犯して利益を貪るハイエナたちの親玉だ。
彼の手には、一本の白く鋭い「牙」が握られている。
それは、ギルドの裏切り者から高値で買い取った、例の「ゴミ袋」から抜き取られた中抜き品の一つだ。
「おい、見ろよこれを」
木戸は牙を振り上げ、手近にあった鋼鉄製の作業机に向かって振り下ろした。
ザンッ!!
何の抵抗もなく、分厚い鋼鉄が豆腐のように切断された。
断面は鏡のように滑らかだ。
「ヒャハァ! すげぇ切れ味だ! これ一本で魔剣何本分だ!?」
「兄貴、鑑定結果が出ました! 品質Sプラス……国宝級です!」
部下たちが色めき立つ。
たった一本の牙でこれだ。
情報によれば、あのゴミ袋の山には、これと同等の素材が腐るほど詰め込まれていたという。
「……で、場所は特定できたんだな?」
木戸がギラついた目で尋ねる。
「へい。S区の深層部にある廃墟、旧・相葉邸です。住人は男一人。名は相葉湊」
部下がタブレットに写真を映し出した。
監視カメラから抜いた画像だ。
ジャージ姿で、サンダルを履き、呆けた顔で台車を押している男。
「……プッ」
木戸は吹き出した。
「なんだこのマヌケ面は。覇気のかけらもねぇ」
「ギルドの登録データもありません。ただの一般人……あるいは、遺産管理人の生き残りでしょう」
「決まりだな」
木戸は確信した。
この男は、かつての大隆起以前からあそこに住み着いているだけの、運の良いネズミだ。
たまたま家の地下か何かにダンジョンの宝物庫があって、その価値も知らずにゴミとして捨てているに違いない。
「宝の持ち腐れってやつだ。……俺たちが有効活用してやるのが世のためってもんだろ?」
木戸が立ち上がる。
その背中には、凶悪な魔剣と、違法改造されたアサルトライフル。
「野郎ども、準備だ! 今夜、S区へカチ込むぞ!」
「「「オオオオッ!!」」」
「抵抗したら? 殺せ。S区は無法地帯だ。警察もギルドも介入できねぇ」
「その家の宝を根こそぎ奪って、俺たちが日本の頂点に立つんだよ!!」
欲望に塗れた歓声が上がる。
彼らは疑いもしなかった。
自分たちが狩る側であり、相手は無力な獲物であると。
——その「獲物」の家が、世界最高峰の防衛システム(庭)と、最強の番犬に守られた魔境であることなど、知る由もなく。
◇ ◇ ◇
一方、S区・相葉邸。
「う〜ん、腹減った」
俺、相葉湊は、ピカピカになった部屋でソファに寝転がっていた。
大掃除も終わり、フィギュアのアリスちゃんとも仲良くなり、心身ともに充実している。
だが、労働の後は腹が減るものだ。
「今日は……ピザだな」
俺はスマホを手に取った。
先日、ヤマゾンで買い物をして以来、俺のアカウントは『ダイヤモンド会員』に昇格していた。
どうやら、例の配送員・剛田さんが「あの方は神客だ!」と報告してくれたらしい。
おかげで、ヤマゾン系列のピザチェーンも『エクストリーム配送』に対応してくれるようになった。
「えーと、メニューは……」
俺が画面をスワイプしていると、アリスがトテテッと肩に乗ってきた。
画面を覗き込み、興味津々な様子だ。
「アリスは何がいい? マルゲリータ? それともテリヤキチキン?」
アリスは少し考えてから、画面上の『ギガ・ミート・デラックス(肉増し)』を小さな指で指差した。
……意外と肉食系女子だった。
「よし、肉増しでいこう。あとコーラも」
注文確定ボタンを押す。
配送料はまたしても高額だが、あまっている魔石(ビー玉)で払えばお釣りが来る。
「届くのは……一時間後か」
俺は窓の外を見た。
日は沈みかけ、S区の廃墟がオレンジ色に染まっている。
夜になれば、また静かな時間がやってくる。
「平和だなぁ……」
俺はあくびをした。
最近、家の周りで変な爆発があったり(※俺のサンダル)、コスプレの人が来たりと騒がしかったが、ようやく日常が戻ってきた気がする。
「このまま、ずっと静かに暮らせたらいいのにな」
俺の呟きに、アリスが同意するように頷いた。
足元では、ポチが「くぅ〜ん」と甘えて寝転がっている。
——だが。
平和ボケした俺の知らないところで、S区の結界境界線が破られようとしていた。
ドゴォォォォンッ!!
遠くで、爆発音がした。
「ん? 雷か?」
俺は窓の外を見るが、空は晴れている。
まあ、S区だしな。魔物同士の縄張り争いでもしてるんだろう。
「アリス、ポチ。戸締まり確認しといて」
俺は適当に指示を出すと、ピザが届くまでの暇つぶしにゲームを起動した。




