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第34話:レイナの事情聴取 〜そのゴミ、私が引き取ります〜

 東京都、探索者協会・S区支部。

 地下深くに位置する『特別危険物保管室』は、重苦しい空気に包まれていた。


「……来てくれたか、銀条君」


 支部長の四谷(胃潰瘍寸前)は、目の前に座る少女を見て、わずかに安堵の息を吐いた。

 銀条レイナ。

 Sランク探索者にして、『剣聖』の二つ名を持つ日本の至宝。

 彼女なら、この異常事態の糸口を知っているかもしれない。


「支部長、緊急の呼び出しとは何事ですか? 私は今、非常に重要な任務(※湊からの連絡待ち)の最中なのですが」


 レイナは不機嫌そうに眉をひそめた。

 ミスリルの鎧を纏い、凛とした佇まいで座る彼女は、まさに戦乙女の風格だ。


「すまない。だが、これを見てほしい」


 四谷は、モニターに映像を映し出した。

 今朝、ゴミ捨て場の監視カメラが捉えた、ジャージ姿の男の映像だ。


 台車を押して歩く男。

 その積荷は、現在この部屋の奥で厳重に封印されている「神話級素材(ゴミ袋)」の山。


「ッ……!」


 レイナの碧眼が、一瞬だけ見開かれた。

 だが、百戦錬磨の彼女は、瞬時にポーカーフェイスを取り戻す。


(あの方だわ……! なんて美しいフォームでの台車押し……!)

(深夜にゴミ出しをする家庭的な一面……尊い……)


 内心で萌え転がりそうになるのを必死に堪え、レイナは冷徹な声で尋ねた。


「……この映像が、何か?」


「白を切らないでくれ」


 四谷は身を乗り出した。


「君は先日、この男と接触しているはずだ。配信事故の件は把握している」

「この男は一体何者だ? なぜ、国家予算に匹敵する『ドラゴンの骨』や『世界樹の葉』を、燃えるゴミに出したんだ?」


 四谷の悲痛な叫び。

 常識的に考えれば、狂気の沙汰だ。

 テロリストか、あるいは認知機能に問題がある神様か。


 レイナは数秒の沈黙の後、静かに口を開いた。


「……存じ上げません」


「なっ!?」


「私はあの日、偶然通りかかっただけです。彼が何者で、どこに住んでいるのか。一切知りません」


 レイナは嘘をついた。

 呼吸をするように、滑らかに。

 全ては、師匠ミナトの平穏を守るためだ。

 もしここで「あそこに住んでます」と言えば、ギルドや政府の黒服たちが大挙して押し寄せ、師匠の引きこもりライフを妨害するだろう。

 それは、弟子として万死に値する。


「そ、そんな馬鹿な……! 君なら何か知っていると……」

「知りませんが——推測なら、できます」


 レイナは言葉を継いだ。

 ここからは、彼女の(勝手な)解釈の時間だ。


「支部長。貴方は、強さの果てに何があると思いますか?」


「え? 強さの果て?」


「はい。あの方は、おそらく『頂』に到達したお方。今の彼にとって、ドラゴンの骨や世界樹の葉など、もはや成長の役には立たない『不純物』に過ぎないのです」


 レイナの瞳が熱を帯びる。


「捨てることで、身軽になる。過去の栄光アイテムに執着せず、全てを無に帰すことで、更なる高みへと至ろうとしている……。これは、いわば『みそぎ』のような儀式なのでしょう」


「み、禊……!?」


 四谷は絶句した。

 断捨離ではない。求道者の儀式だと?

 数百億円をドブに捨てることが?


「だ、だが、現物がここにある! これをどうする!? 市場に流せばインフレが起きるぞ!」


 四谷は頭を抱えた。

 ゴミとして出された以上、所有権は放棄されている。

 だが、これを換金してギルドの予算にするのはリスクが高すぎる。

 「勝手に俺の禊を邪魔したな?」と、あの男が怒り狂って攻めてきたら、S区支部などデコピン一発で消滅する。


「……でしたら」


 レイナが、スッと手を挙げた。


「私が引き取りましょう。個人的に」


「えっ? 君が?」


「はい。ギルドが抱え込めば問題になりますが、個人が『研究資料』として保管する分には問題ないはずです。私が責任を持って管理し、決して市場には流しません」


 レイナの提案は、四谷にとって渡りに船だった。

 Sランク探索者の彼女なら、この危険物を守り切れる実力があるし、信用もできる。

 何より、この胃の痛くなる爆弾を手放せるなら何でもいい。


「わ、分かった! 許可する! 頼んだぞ!」


「承知いたしました(計画通り!)」


 レイナは内心でガッツポーズをした。

 これで、師匠の出したゴミ(聖遺物)は全て私のもの。

 自宅の金庫がパンクするかもしれないが、嬉しい悲鳴だ。

 あとで分別して、綺麗に洗って、祭壇に飾ろう。


 レイナは立ち上がり、保管庫のゴミ袋を愛おしそうに見つめた。


「では、運び出します。……トラックを一台、手配していただけますか?」


 ◇ ◇ ◇


 こうして、S区のゴミ騒動は、レイナによる「隠蔽と私物化」によって幕を閉じる——はずだった。


 だが、組織というのは一枚岩ではない。

 ギルドの中にも、私利私欲にまみれたネズミが潜り込んでいるものだ。


 S区支部の裏口。

 一人の職員が、物陰に隠れて電話をかけていた。


「……ああ、そうだ。噂は本当だったぜ」


 男は、隠し撮りした画像を送信した。

 映っているのは、保管庫に積まれた「宝の山」と、それを運び出すレイナの姿。


「Sランク素材の山だ。ドラゴンの牙、世界樹、その他もろもろ……。推定数百億はある」

『……出処は?』


 電話の向こうから、しゃがれた声が響く。


「監視カメラの映像を見た。捨てたのは、S区の廃墟に住むジャージの男だ。……ただの一般人に見えるぜ。警備もザルだ」


『ククク……。そうか』


 電話の相手が、醜悪な笑い声を漏らす。


『銀条レイナが持ち出した分は諦めるとして……その「発生源」を抑えれば、俺たちは億万長者ってわけか』


「ああ。早いもん勝ちだぜ、木戸キドさん」


 通話が切れる。

 職員はニヤリと笑い、送信履歴を消去した。


 ——情報は漏れた。

 宛先は、裏社会で悪名を轟かせる武闘派クラン、またの名を悪徳ギルド『蛇の牙スネーク・ファング』。


 彼らはハイエナだ。

 弱者を食い物にし、死肉を漁る。

 そんな彼らが、「無防備な一般人が、宝の山の上に住んでいる」という情報を得て、動かないはずがなかった。


 ◇ ◇ ◇


 一方、相葉邸。


「あー、スッキリした!」


 俺、相葉湊は、綺麗になった部屋で伸びをしていた。

 大掃除も終わり、ゴミ出しも完了。

 心なしか、Wi-Fiの電波も良くなった気がする。


「アリス、今日はピザでも頼むか?」


 フィギュアのアリスが、嬉しそうに飛び跳ねる。

 平和だ。

 この世の春だ。


 俺はまだ知らない。

 自分の出したゴミが原因で、武装した強盗団がこちらに向かって進軍準備を始めていることを。


 そして、その強盗団が、俺の家の「防犯システム(庭と犬)」の前で、どのような末路を辿ることになるのかを。

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― 新着の感想 ―
トイレで出した○○○もすごい肥料になってそう
ビザの配送? ここに? w
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