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第27話:配達員はSランク 〜地獄のデス・ロード〜

 ブォォォォォォォォォォンッ!!


 重低音のエンジン音が、荒廃したS区の静寂を切り裂いた。

 爆走するのは、漆黒の装甲配送トラック。

 その名も、『ブラック・バイソン号(対魔物仕様カスタム)』。


 車体は戦車と同じ複合装甲で覆われ、屋根には自動追尾ガトリング砲を搭載。

 タイヤはパンク知らずの魔導ゴム製。

 ハンドルを握るのは、YAMAZONヤマゾンが誇る最強の配達員——剛田ごうだたけしだ。


「ヒャッハァァァァ! 道を開けろ雑魚どもォ!!」


 剛田はアクセルをベタ踏みし、群がる『ゴブリン・ソルジャー』の群れをボウリングのピンのように跳ね飛ばした。


 グチャッ! バキィッ!


 フロントガラスに緑色の体液が飛び散るが、剛田は眉一つ動かさない。

 ワイパーを動かし、視界を確保する。


「現在時刻、13時58分……。指定時間は14時〜16時だ」


 剛田の目がギラリと光る。

 彼の辞書に「遅配」の文字はない。

 たとえ相手が魔王だろうが、核戦争の最中だろうが、指定された時間枠(2時間)の中に荷物をねじ込む。

 それが『エクストリーム配送』の流儀だ。


「荷台の揺れ、正常値。Gセンサー異常なし」


 彼が何より気にかけているのは、助手席の専用ケースに固定された「荷物」だ。

 中身は、依頼主(相葉湊)が注文した『聖女アリス 限定フィギュア』と『トイレットペーパー(ダブル)』。


 たかがオモチャと紙切れ。

 だが、剛田にとっては世界の命運よりも重い「聖遺物」だ。


「箱のカド一ミリたりとも凹ませるんじゃねぇぞ……!」


 剛田はハンドルを片手で巧みに操りながら、もう片方の手でダッシュボードの赤いボタンを押した。


 『敵影確認。上空、3時方向。ワイバーン・ロード接近』


 AIナビゲーションが無機質な声を上げる。

 空から、翼長10メートルを超える飛竜が、トラックを獲物と定めて急降下してきていた。

 口には灼熱のブレスを溜め込んでいる。


「チッ、空からの輸送(邪魔)かよ!」


 剛田は舌打ちした。

 Sランク指定区域、S区。

 ここは空も陸も地獄だ。

 普通の配送業者なら、S区の入り口でUターンして「不在票(というか遺書)」を置いて帰るレベルだ。


 だが、剛田は違う。

 元Sランク探索者。

 引退した今も、その腕は錆びついていない。


「焼き鳥にしてやるよ!」


 剛田は天井のハッチを開け、身を乗り出した。

 手には、配送用の伝票端末……ではなく、携帯型対空魔導ミサイルランチャー(業務用)。


 ドシュッ! ドシュッ!


 二発の光弾が空を裂く。

 ワイバーンはブレスを吐く寸前で被弾し、悲鳴を上げて墜落した。


 ズガァァァァンッ!!


 爆風がトラックを揺らすが、ブラック・バイソン号は微動だにしない。


「よし、撃墜確認! チップ(魔石)は拾ってる暇がねぇ!」


 剛田は再び運転席に戻り、ギアをトップに入れた。

 目指すはS区最深部。

 地図にすら載っていない空白地帯、相葉邸だ。


 ◇ ◇ ◇


 数分後。

 剛田の前に、最後の難関が立ちはだかった。


 それは、目的地の周囲を覆う、鬱蒼とした森——相葉邸の「庭」だ。

 植物が異常成長し、マンドラゴラや吸血蔦が絡み合う緑の迷宮。

 道などない。


「……ここが、あの方の城か」


 剛田は冷や汗を流した。

 肌で感じる。

 この森全体が、一つの巨大な「捕食者」であるような威圧感。

 そして、その奥から漂ってくる、絶対的な死ポチの気配。


 普通の人間なら、ここで心を折られて引き返すだろう。

 だが、剛田はアクセルを緩めなかった。


「道がねえなら、作るだけだァ!!」


 ガガガガガガッ!!


 トラックの先端に取り付けられた衝角ラムが、巨木をへし折り、魔界の植物を粉砕していく。

 車体が激しく軋む。

 装甲が剥がれ落ちる。

 それでも、荷台のフィギュアだけは、衝撃吸収ジェルの中で揺りかごのように守られている。


「うおおおおおおっ!! お客様が! トイレットペーパーを! 待っているんだァァァァッ!!」


 剛田の魂の叫びがこだまする。

 ケツを拭く紙がない絶望を知っている男の叫びだ。


 そして。

 森を抜けた先に、それはあった。


 ポッカリと開けた空間。

 そこに佇む、古びた一軒家。

 奇跡のように、そこだけ静寂が保たれている。


 キキキーッ!!


 ブラック・バイソン号は、タイヤから白煙を上げながら、玄関の真ん前にドリフト駐車を決めた。


 プシュー……。


 エンジンが停止する。

 ボロボロになった車体からは、煙とオイルの匂いが漂っている。

 ワイバーンの爪痕、酸の唾液による腐食、無数の凹み。

 まさに、死線を潜り抜けてきた証だ。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 運転席から、血まみれ(かすり傷)の剛田が降りてきた。

 足は震えているが、その目はプロの光を失っていない。


 腕時計を見る。

 14時05分。


「……完璧だ」


 剛田はニヤリと笑い、荷台からダンボール箱を慎重に取り出した。

 箱には傷一つない。


 彼は血で汚れた手を拭い、服の乱れを整え、深呼吸をした。

 ここは魔王の城。

 粗相があれば、命はない。


 剛田は震える指で、インターホンを押した。


 ピンポーン。


 その音は、地獄のドライブを終えた男にとって、勝利の鐘の音に聞こえた。


 ——家の中。

 PCの前で、カップ麺の残り汁を飲んでいた湊。


「お、来た来た。ヤマゾンさん、仕事早いなぁ」


 彼は呑気に立ち上がると、ペタペタとサンダルを鳴らして玄関へ向かった。

 ドアの向こうに、満身創痍のSランク戦士が立っていることなど、想像もせずに。

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― 新着の感想 ―
 多分、現実の配達員さんも……凄く大変だと思う。
サンダル?
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