第16話:絡んでくるのはヤンキーだけじゃない 〜対人恐怖症 VS チンピラ〜
S区の境界線。
そこには、かつて政府が設置した頑丈なバリケードと、有刺鉄線が張り巡らされている。
通称『生と死のライン』。
ここを越えれば、隣町の安全地帯だ。
コンビニの明かりも、自販機の光も、すぐそこに見えている。
——だが。
そのゲートの前には、魔物よりも厄介な障害物が立ちふさがっていた。
「おいおい、見ろよあの姉ちゃん」
「すげー装備。コスプレか? 金持ってそうじゃね?」
「隣のジャージ男はなんだ? ヒモか?」
男たちが五人ほど、ゲートの前でたむろしていた。
派手な髪色に、ピアス、そして腰には安っぽいナイフや棍棒。
いわゆる「探索者崩れ」のチンピラ集団だ。
正規の探索者になれなかった彼らは、こうして危険地帯の入り口で「初心者狩り」や「通行料の徴収」をして日銭を稼いでいるのだ。
「ひっ……!」
俺、相葉湊の足がピタリと止まった。
心拍数が跳ね上がる。
手汗が止まらない。
(や、ヤンキーだ……! 本物のヤンキーだ……!)
引きこもり歴三年の俺にとって、不良というのはドラゴンの百倍怖い存在だ。
だって、話が通じないし、すぐ殴ってくるし、何より「人間」だからだ。
モンスターならハエ叩きで叩けば消えるけど、人間を叩いたら傷害罪で捕まってしまう。
警察沙汰になれば、俺の平穏な引きこもりライフは終了だ。
「ど、どうしようレイナちゃん。道変える?」
俺は小声で隣のレイナに話しかけた。
しかし、彼女の反応は予想外だった。
チャキッ。
硬質な音が響く。
見れば、レイナが背中の大剣の柄に手をかけ、低い重心で構えていた。
その碧眼は、氷のように冷たく細められている。
「師匠、ご許可を」
レイナが、地獄の底から響くようなドスの効いた声で言った。
「あの程度のゴミ掃除、三秒で終わらせます。……峰打ちで、半身不随くらいの手加減はいたしますので」
「ッ!?」
俺は仰天した。
待て待て待て!
なんで殺る気満々なの!?
半身不随って手加減じゃないよね!?
(この人、ガチの武闘派だ……!)
俺は焦った。
ここでレイナが暴れたら、間違いなく大ニュースになる。
『S区で傷害事件! 犯人は鎧の女とジャージの男!』なんて報道されたら、俺は二度とコンビニに行けなくなる。
「だ、ダメだ! 暴力はダメだ!」
俺は慌ててレイナの肩を掴んで止めた。
「え……? しかし、師匠を侮辱する輩ですよ?」
「いいから! 警察沙汰になったらどうするの! 平和にいこう、平和に!」
俺は必死に説得した。
レイナは不服そうに唇を噛んだが、しぶしぶ剣から手を離した。
「……承知いたしました。師匠がそこまで仰るなら、慈悲を与えましょう」
「(慈悲とかじゃなくて保身なんだけどな……)」
とりあえず、流血沙汰は回避した。
だが、問題は解決していない。
あのヤンキーたちをどうにかして退かさないと、ポテチにはありつけないのだ。
「……僕が話すよ」
俺は覚悟を決めた。
ここで逃げたら、一生ポテチが食えないかもしれない。
相手も人間だ。誠心誠意、下手に出れば通してくれるはずだ。
「僕はお金なんて持ってない貧乏人です」というオーラを出せばいい。
「し、師匠自ら……!? 穢れ仕事をご自身の手で……!?」
レイナが何やら感動しているが、無視して俺は一歩を踏み出した。
膝がガクガク震えている。
歯の根が合わない。
(怖い……帰りてぇ……)
だが、俺の足はコンビニ(のポテチ)を求めて動く。
俺は、ヤンキーたちの前まで進み出た。
「あ、あのっ……」
声をかけようとしたが、喉が張り付いてうまく声が出ない。
俺はうつむき加減で、震えながら彼らの前に立った。




