表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/100

最終話:久しぶりに外に出たら最強だったけど 〜やっぱり家が一番だわ〜

 S区・相葉邸。

 世界を救う大騒動から数日後。

 俺たちの聖域には、いつもの穏やかな朝が訪れていた。


 シャッ!


 小気味よい音と共に、リビングのカーテンが開け放たれる。

 眩しいほどの陽光が、薄暗い部屋に差し込んできた。


「師匠! 起きてください!」


 エプロン姿の銀条レイナちゃんが、窓際で振り返って微笑んだ。

 逆光に輝く銀髪。

 手にはハタキを持っている。完全に「若奥様」か「ベテラン家政婦」の風格だ。


「……んぅ……」


 俺、相葉湊は、ソファの上で目をこすった。

 昨夜は遅くまで、アメリカのジャックさんと、配送業の剛田さんと一緒にオンラインでパーティを組んでいたのだ。

 寝不足だ。


「今日は快晴ですよ! 絶好のお散歩日和です!」


 レイナちゃんが窓の外を指差す。

 俺は欠伸をしながら、窓辺へと歩み寄った。


 窓の外。

 黒いフェンスの向こう側には、復興へ向かう東京の街並みが見える。

 遠くには建設中のビル。

 空を行き交う飛行船。

 そして、フェンスの周りには、今日も俺の家を拝みに来た観光客たちの姿が小さく見える。


「……平和だなぁ」


 俺は目を細めた。

 スタンピードの爪痕はまだ残っているが、人々はたくましく生きている。

 俺がサンダルで吹っ飛ばした裏山も、なんだか新しい観光名所パワースポットになっているらしい。


「師匠」


 レイナちゃんが、少し改まった顔で俺を見た。


「今日は、ギルド主催の式典があるそうです。師匠さえよろしければ……一度、外へ出てみませんか?」


 外。

 フェンスの向こう側。

 そこには、俺を英雄として称える人々がいる。

 富も、名誉も、黄色い声援も、思いのままだろう。


 俺は、外の景色をじっと見つめた。


 三年前。

 世界が変わってしまったあの日から、俺はずっと怖がっていた。

 外に出ることを。人と関わることを。

 自分の部屋だけが安全だと信じて、殻に閉じこもっていた。


 でも、今は違う。

 俺は知ってしまった。

 自分が、外の世界でも通用する(というか強すぎる)ことを。

 仲間と呼べる人たちがいることを。


 今なら、堂々と外を歩ける。

 誰にも怯えることなく、英雄として生きることもできる。


 俺は窓枠に手をかけ、身を乗り出した。

 風が心地よい。

 日差しも、以前ほど痛くない。


 行こうか。

 外の世界へ。


 ——俺は、くるりと背を向けた。


「……んー、パス」


 俺は即答した。

 そして、愛用のゲーミングチェアにドカッと座り直した。


「えっ? よろしいのですか?」


 レイナちゃんが目を丸くする。


「うん。だって今日、ゲーム内イベントの初日だし」


 俺はPCの電源を入れた。

 七色に光るファンが回り出し、モニターにログイン画面が表示される。


「それにさ」


 俺はニカっと笑った。


「外も悪くないけど、やっぱり俺は——この部屋が一番好きなんだわ」


 俺の言葉に、レイナちゃんは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに微笑んだ。


「……ふふっ。そうですね」

「師匠は、この『玉座ゲーミングチェア』がお似合いです」


 彼女は深々と一礼した。


「では、私はお茶とお菓子をお持ちします。剛田さんが届けてくれた新作のシュークリームがありますので」

「おっ、ナイス!」


 足元では、ポチが「遊んでー」とじゃれついてくる。

 棚の上では、アリスが「頑張って」と旗を振っている。

 キッチンからは、甘い香りと包丁の音が聞こえてくる。


 完璧だ。

 これ以上の幸せが、外の世界にあるだろうか?

 いや、ない。


 俺はヘッドセットを装着した。

 画面の向こうには、待ってくれているフレンドたちがいる。


 『久しぶりに外に出たら、自分が最強だって気づいた』


 それは事実だ。

 ドラゴンをハエ叩きで倒し、魔王をスリッパで倒した。

 世界を救ってしまった。


 『でも、そんなことより、家でゲームしてる方が楽しい』


 それもまた、揺るぎない真実だ。


 俺はマウスを握りしめた。

 世界最強の引きこもり、相葉湊。

 彼の戦いは終わらない。

 ランクマッチの順位を上げるために。

 そして、この愛すべき平穏な日常を守り抜くために。


「——さて、ログインするか」


 カチッ。


 クリック音が、静かな部屋に響いた。

 俺たちの物語は、この半径6畳の部屋から、これからもずっと続いていく。


 【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ