第1話:部屋に出るトカゲはハエ叩きで潰す
毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10 に1話ずつ
5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので
よろしくお願いします
カチカチカチッ、ッターン!
「よっしゃ、ヘッドショット! これでランク昇格だ!」
薄暗い六畳一間の部屋に、俺の歓喜の声が響いた。
ゲーミングモニターの光だけが照らすこの空間こそ、俺の城。世界の全てだ。
俺の名前は相葉湊。二十歳。
由緒正しき自宅警備員であり、この実家の離れに引きこもって早三年になる。
外の世界? 知らん。
なんでも三年前に世界中で「ダンジョン」とかいうのが発生して、モンスターが溢れかえる世紀末になったらしいけど。
ネットニュースで見た限りだと、日本も結構ヤバいらしい。
けどまあ、俺の住んでる東京のS区は田舎だからか、今のところ平和なもん——
『グオオオオオオオオオオッ!!』
ズズズズズ……ッ!
思考を遮るように、部屋の空気がビリビリと震えた。
まただ。
最近、部屋の壁紙のシミみたいなところから、変なのが湧くんだよな。
俺はヘッドホンを少しずらして、背後を振り返る。
そこには、漆黒の鱗に覆われた、体長二メートルほどの爬虫類がいた。
爛々と赤く輝く目。ナイフみたいに鋭い牙。
口からは灼熱の炎のような煙を漏らし、俺を睨みつけている。
「……あー、また出たのかよ。最近のトカゲはデカいしうるさいなぁ」
俺はため息をついた。
季節の変わり目だからだろうか。最近、こういう害虫(害獣?)がよく部屋に出る。
ゴキブリよりはデカいし、ヤモリにしては凶暴そうだ。
『グルルルル……(我ハ黒竜、深淵ヨリ来タリシ絶望ナ——)』
「うるさい、静かにしろ。近所迷惑だろ」
俺は手元にあった武器を手に取った。
百円ショップで買った、プラスチック製のハエ叩きだ。三年使い込んでいる愛用品である。
トカゲ(?)が、大きく口を開けた。威嚇だろうか。
生意気な。ここは俺の部屋だぞ。
「シッ!」
俺は無造作に、手首のスナップを利かせてハエ叩きを振り抜いた。
パァァァァァァァンッ!!
乾いた破裂音が、狭い部屋に響き渡る。
『——ガ、ッ!?』
トカゲの頭部に、ハエ叩きの網目がジャストミートした。
次の瞬間。
トカゲの巨体が、まるで爆散するように黒い粒子となって弾け飛んだ。
シュウウウウ……。
黒い霧が晴れると、そこには何も残っていない。
いや、床にポツンと何かが落ちていた。
「ふぅ。手応えあり」
俺はハエ叩きを元の位置に戻し、床に落ちたものを拾い上げる。
黒っぽい、乾燥した肉片だ。
「お、今日のトカゲは実入りがいいな」
見た目は完全にビーフジャーキーだ。
最初の頃は「なんだこれ?」と警戒したが、試しに食ってみたら極上の味がした。
どうやらこのトカゲ、退治するとおやつを落としてくれるらしい。ボーナスキャラかよ。
俺はその肉片を口に放り込む。
「ん〜、美味い! 噛めば噛むほど味が染み出してくる!」
あえて例えるなら、最高級のA5ランク和牛を熟成させたような濃厚な旨味。
全身の細胞が活性化して、力がみなぎってくる感覚がある。
やっぱり、ゲームの合間の糖分とタンパク質補給は欠かせないな。
「喉乾いたな……」
俺はPCデスクの足元にある小型冷蔵庫を開けた。
中に入っているのは、いつも愛飲している青色の炭酸飲料(コーラ的なやつ)だ。
ちなみにこれも、以前部屋に出た青いスライムみたいなのをホウキで掃いたらドロップしたやつである。
プシュッ。グビ、グビ、グビ……ぷはーっ!
「キクぅぅぅ! やっぱこれだよな!」
喉越し爽快。飲んだ瞬間に、徹夜明けの目の霞みが一瞬で晴れ渡る。
カフェインとか入ってるのかな? エナドリより効く気がする。
「さて、と」
害虫駆除も終わったし、腹も満たされた。
俺は再びゲーミングチェアに深く座り直し、マウスを握る。
外の世界がどうなっているかは知らない。
けれど、電気も通ってるし、ネットも繋がるし、たまにこうして美味しいおやつも手に入る。
両親は避難したのか母屋にはいないけど、俺はこの離れで快適に暮らしている。
——この時の俺は、まだ知らなかった。
さっき叩き潰したトカゲが、外の世界では『ブラックドラゴン』と呼ばれる災害級のモンスターであることも。
俺が食べているジャーキーが、万病を治す『竜の心臓肉』であることも。
飲んでいるジュースが、死者すら蘇らせる『神霊水』であることも。
そして、俺のこの六畳一間の部屋が、世界最凶難易度を誇るラストダンジョンの最深部と繋がってしまっていることなんて、微塵も気づいていなかったのだ。
「よし、次のマッチングきた! 行くぞオラァ!」
俺は今日も、平和な引きこもりライフを謳歌する。
……はずだった。
あの、「Wi-Fi切断事件」が起きるまでは。




