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別れを告げて、新しい場所へ

作者: 有未

 むかしむかしの、引っ越しのお話。


 初めての、お引越し。なにをしたら良いか、どうしたら良いかも良く分からなくて。荷物も沢山で。本を一杯にダンボール箱に詰めてしまって、重くて持ち上がらなかったり。洋服のハンガーをまとめている時間がなくて、適当になってしまったり。それでも私とお手伝いの人とで、着々と進んで行く荷造り。荷積み。


 お別れに、母からぽんと持たされた観葉植物。ポトスという名前のはず。そんなことを思いながら、私は車の助手席で手に持たされたそれを見ていたっけ。


「育てていたんでしょ」


 素っ気なく言われた、その言葉。私は「うん」としか言えなかった。そしてポトスに落ちていた私の視線はそのまま固まってしまい、顔が上げられなくなった。


 いよいよ、車が出発するという時になって。こんこんと軽く叩かれた助手席の窓。私が思い切って顔を上げると、晴れ晴れとしたどこか歪な笑顔で母に微笑まれ、ひとつお辞儀をされた。それはまるで、今生の別れのような。私もきっと歪な表情で「またね」と窓越しに言った。聞こえていないかもしれないけれど。「また」など、もうないかもしれないけれど。


 車が走り出して、私は新しい家に運ばれて行った。それが幸せのはじまりだと信じて。


 ――引っ越し後、三年は其処に住んだ。幸せでなかったとは言わないけれど、不幸でなかったとも言えない時間と環境だった。ただひたすらに歌を聴き、小説を書き。それの繰り返しで自分のかたちと向き合い、輪郭を保っていた時間だった。


 やがて私は次の引っ越しを決めて、また荷造りをする。きっとまた、幸せのはじまりだって信じて。

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