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声の巣  作者: よねり


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2/7

硝子の広場

——届く言葉ほど、手から早く離れていく。——




 硝子の広場、と私は呼んでいる。


 声の巣の中央にある、平らで、よく磨かれた場所だ。そこでは声が反射し、よく見える。よく見えるということは、よく選別されるということでもある。


 私は、いつの間にか、その広場に立っていた。


 立つつもりはなかった。歩いていただけだ。巣の縁をなぞるように、言葉の流れを追っていただけだ。それが、気づくと、足の裏に均された感触があった。




 何かを書いた。


 短く、整えて、余分な呼吸を削いだ文だった。


 怒り過ぎず、冷え過ぎず、誰かの肩にちょうど触れるくらいの温度で。




 声は、思ったより遠くまで届いた。


 届いた、というより、滑った。


 硝子の上を、よく磨かれた硬貨のように。




 返事が来た。


 返事の返事が来た。


 知らない誰かが、私の言葉を少し持ち上げ、別の場所に置いた。


 言葉は、私の手を離れたあと、急に軽くなった。




 軽い言葉は、よく跳ねる。


 跳ねるたびに、形が整う。


 棘は丸まり、陰影は均され、代わりに、分かりやすい輪郭がつく。


 私は、うまくやったのだと思った。


 少なくとも、失敗はしていない。


 誰も傷つかず、空気は荒れず、声は無事に着地した。




 硝子の広場では、拍手が鳴る。


 実際の音ではない。


 しかし、音よりも速く、確実に伝わる合図だ。


 数えられ、並べられ、増えていく。


 増える、という現象には、癖がある。




 一つ増えると、次が欲しくなる。


 次が来ると、前の一つが、少し色褪せる。


 私は、その仕組みを、よく知っているはずだった。


 それでも私は、指を止めなかった。


 止めなかった理由は、単純だ。


 言葉が、通じたからである。




 通じる、ということは、恐ろしい。


 誤解されない。


 引っかからない。


 黙っていても、誰かが続きを言ってくれる。


 私は、自分の声を、少しだけ信用し始めた。


 この声は、役に立つ。


 この声は、ここで使える。




 硝子の広場では、声に値段がつく。


 露骨な値札ではない。


 けれど、並び順があり、目立つ位置があり、


 人の目が留まる時間が、測られている。




 私は、測られていることを知っていた。


 知っていながら、測りやすい形で書いた。


 行間を詰め、比喩を整え、余白を残さなかった。




 余白は、広場では嫌われる。


 何も映らないからだ。


 何も映らない硝子は、すぐに拭かれる。


 私は、拭かれたくなかったのかもしれない。


 あるいは、ただ、拭かれることを想像して、


 少しだけ、身を縮めただけか。




 その夜、私は思った。


 声は、届くほど軽くなる。


 軽くなるほど、遠くへ行く。


 遠くへ行くほど、戻ってこない。


 それでも、広場は明るかった。




 硝子はよく光り、


 私は、自分の姿が、少しはっきり映るのを見ていた。

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