表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話「追放」

どうしてこんな事になってしまったのか、と自問自答するのは昔からの癖だった。

ずっと自分に自信が無かった。

それでも大して悪いことはしてこなかったはずだと思いたい。

自信が無いなりに、誰の迷惑にもならないように過ごしてきたつもりだった。

そんな自分の最期が事故なんて、本当にどうしてこんな事に。


気づけば赤ん坊の体になっていた。

すぐに思い当たった。

これ、アレだな?

いわゆる、転生モノだと。


根暗でオタクな俺は、ライトノベルを多く読んでいたと思う。

少なくともビジネスやら自己啓発にはあまり興味がなかったし、純文学だってそうだった。

まさか自分がそんな、物語の主人公のような境遇になるとは思わなかった。

だが、なったものはなったものだ。

ここから俺の、トロイ・オデュッセウスとしての、新たな人生が始まる!

そう、超主人公的ヒーローな人生が……!


もっとも、結局人生甘くない。

剣と魔法の中世ファンタジーモノって言っても、だから何?

この世界でも人は生きていて、俺も生きていて、すべてが思う通りにはならないのだ。

でも、それなりに満足して生きている。

自分はいつの間にか、前世よりも長くこの世界で生きていた。

それをなんだか寂しく思いつつも、仕方ないと割り切ったのはいつのことだったか。


「トロイ師匠! 早く行かないと置いて行っちゃいますよ!」


前を歩く金髪の、年下の青年が振り返る。

あぁそうだ、彼に師匠と呼ばれるようになってから、まぁいいかと思えるようになったのだっけか。


「今行くよ、エイダン。でもそんなに急がなくたって、王都は逃げないだろ」

「そうは言いますけど、早く行った方がいいでしょ? 世界は勇者を、ヒーローを待ってるんですよ!」


そう自信満々に語るのは、エイダン・シェイファー。

彼は突き抜けるような青空に背中を預け、太陽の真下で笑っていた。


世界は勇者を待っている。

それは何も過言ではなく真実だった。

この世界には魔物が居て、それを統べる魔王が居る。

それは人間も同じだが、人間と同じということは、悪い奴が魔王になったときも同じなのだ。

一番迷惑を被るのは、本人達ではなく周り。

今、人類は魔物によって大変な迷惑をかけられている。

そして、魔物達がそれを許すのなら、こちらが取る手段は一つしかないのだ。


「でも、ビックリしました」

「何が?」

「勇者に選ばれるのはトロイ師匠だと思ってたんです、僕」

「それはまた……なんで?」

「トロイ師匠は最強だからです!」

「そんなことないけどなぁ……」


勇者は神が選ぶ。

神官が神の言葉を受け取り、王に伝え、伝令に伝わって……。

そうしてピュセル村に、エイダンに、彼が勇者であると伝わった。

だから俺たちに介入する余地は無いし、どうしてエイダンが選ばれたかもわからない。

それはそれとして、俺は最強ではない、決して。

俺より強い人間なんて山ほど居るんだから。

王都に行けばエイダンもわかることだろう。


「ま、それならエイダンは王都に行ったら、俺に失望するだろうな」

「え!? な、なんでですか!」

「俺より強い奴がいっぱい居るから」

「えー嘘だぁ」

「ホントだって」


前を歩いていたエイダンに追いつく。

恐らく、会話にかまけて歩くスピードが落ちていたのだろう。

まぁ一応、本当に一応急ぎの旅ではあるがこのくらいは許容範囲内だ。


「ねぇ、トロイ師匠」


隣を歩くようになった俺の顔を覗き込むように、或いは様子を窺うように。

赤い瞳と目が合う。

どこまでも純粋な、どこへでも行けそうな、夢に溢れた目。


「勇者の冒険に、仲間って必要ですよね」

「そうだな。何か心配なのか? お前なら誰とでも仲良くできるし、問題ないと思うんだけど」

「そうじゃなくて! えーと、改めて面と向かって言うのは恥ずかしいんですけど!」


少しもごもごと口ごもった後、意を決したように口を開いた。


「俺の旅に、トロイ師匠もついてきてくださいよ」


どこか不安げで、断られるんじゃないかと思っているんだろう。

少し表情が曇っていて、なんともかわいらしい。

つい吹き出してしまう。


「あ! 笑いましたね!?」

「いやぁ、ごめんごめん。つい、ね」

「も~……。で、どうなんですか?」

「まぁ、騎士団がどう言うかってのは前提だけど。エイダンが望むならついてくに決まってるだろ?」


不安げだった目が、嬉しそうに輝く。


「やったぁ! トロイ師匠大好き!」

「はいはい、でも騎士団次第だからな?」

「騎士団なんて蹴ってでも僕のこと追いかけてくださいよ!」

「なんだそれ。お前は俺の何なんだよ」


二人でくすくす笑いながら歩く。

暫く笑った後、エイダンが口を開いた。


「もちろん、トロイ師匠の一番弟子です」


二人で太陽の下を歩く。

だからこの時、俺の心に不安は無かった。

何があろうと一番弟子を守ろうと決めていたし、もしそれで二回目の死を迎えたとして、多分悔いは無いと思う。

そもそもどっちかが死ぬなんて、そんなことは頭になかった。

なんだかんだ仲間を増やして、絆を深めて、魔王を討伐しておしまい!

ハッピーエンド!

そう思っていた。

……もし、何かがあったとしても。

そうネガティブなことを思っても、こんな事は頭になかった。


「トロイ・オデュッセウス」


勇者、が、俺を見つめる。

周りの仲間たちの視線も、俺に集まる。

彼らともそれなりの友情を築いていたはずだ。

それでも皆、冷たい目を俺に向けてきた。

冷や汗が背中を伝う。


「お前はもう、ついてこなくていい。いや、もう来るな。帰ってくれ」


どうしてこんな事になってしまったんだ。

俺が悪いのか?


目の前の彼は、決して、エイダン・シェイファーではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ