エピソード2:初めての仕事
草原の風がメイの獣の耳をそよぐ中、彼女は胸に紫の魔石をぎゅっと抱きしめていた。
ルミナ――彼女の心が生み出した召喚獣の名を口にした瞬間、希望の光がメイの心に灯った。
奴隷市での暗い日々を抜け出し、ルミナという新しい相棒を得たメイは、これから始まる新しい人生に胸を高鳴らせていた。彼女の金色の瞳はまだ涙で潤んでいるが、その奥には小さな決意が宿っている。
ルミナがメイの側に立ち、穏やかに微笑んだ。黒い髪が風に揺れ、赤い瞳が優しくメイを見つめる。
「さて、メイ様。私達の仲を深める事も大切ですが、本日の食事代と宿代も確保しなければなりません。そういった社会勉強も始めませんか?」
その声は、礼儀正しくも温かみに満ちていた。
メイの耳がピクリと下がり、不安そうな表情が浮かぶ。
「く、くぅん…! そ、そうですね…私、お金の事とか全然分からなくて…」
彼女の尾が縮こまり、奴隷生活で学べなかった「外の世界」の広さに少し怯えている。
ルミナはニッコリと笑い、自信たっぷりに答えた。
「私はウルフ様の記憶を受け継ぎ、知識があります。そして、メイ様の記憶も受け継いでいるので、メイ様に見合った外の世界での生き方をお教えさせて頂きます。」
彼女の白い翼から光の粉がキラリと舞い、まるでメイを励ますように輝く。
メイの顔がパッと明るくなり、尾が小さく揺れた。
「わ、わん…! ルミナが教えてくれるなら…頑張れそう…!」
彼女はルミナの笑顔に勇気をもらい、胸の魔石をそっと握りしめる。
ルミナが軽やかに提案した。
「まずは酒場に向かいましょうか? どの酒場にもそういった『お金が貰える依頼』というものがあります。そちらでメイ様に見合った依頼を探しましょうか?」
メイは少し緊張した様子で頷いた。
「う、うん…! 初めての…お仕事…頑張ります…!」
彼女の耳がピクピク動き、初めての挑戦に心が弾む。ルミナの側にいれば、きっと大丈夫。そんな確信が、彼女の小さな胸に芽生えていた。
二人は草原を後にし、近くの街の酒場へと向かった。
木造の酒場は賑やかで、冒険者や商人の笑い声、グラスのぶつかる音が響いている。壁には無数の依頼書が貼られ、色とりどりのインクで書かれた文字がメイの目を引く。
ルミナがそっとメイの背を押すと、彼女は興味深そうに依頼書を眺めた。
「へぇ…これなら…私にも…できそう…!」
彼女の尾がパタパタと揺れ、好奇心が恐怖を少しずつ上回る。
ルミナがメイの興味を引いた依頼書を覗き込み、穏やかに言った。
「そうですね。そういった『犬の散歩』などの簡単な依頼もあります。そのメイ様の判断の良き点と、悪い点をお伝えしますね?」
メイは真剣な表情でルミナを見上げた。
「は、はい…! ルミナの意見…聞かせてください…!」
彼女の金色の瞳がキラキラと輝き、ルミナの言葉に全幅の信頼を寄せている。
ルミナは優しく説明した。
「最初に良き点。これは安全面の確保。素晴らしいです。その依頼なら危険性もなく確実に依頼をこなせるでしょう。」
彼女は壁の別の依頼書――「魔獣討伐」と書かれた張り紙を指差す。
「こちらのような依頼では、危険性もありますからね?」
メイは「く、くぅん…」と小さく鳴き、魔獣討伐の張り紙を見て少し怯えた。彼女の耳がピクリと下がり、尾が縮こまる。
「安全な方が…いいです…!」
奴隷市での恐怖が脳裏をよぎり、彼女は安全な道を選びたいと強く思う。
ルミナはクスクスと笑い、優しく続けた。
「そして悪い点です。これはまだメイ様が外の世界に慣れていないので致し方ない部分が勿論あります。悪い点は……その報酬額では食事と宿の確保は不可能ですね。」
メイは恥ずかしそうに頬を赤らめ、依頼書をもう一度見つめた。
「あっ…そうですね…もう少しお金が貰える依頼をしないと…!」
彼女の耳が少し動き、失敗を笑い飛ばすルミナの明るさに救われる。
ルミナが一枚の張り紙を指差した。
「私が今のメイ様の状況での最適な依頼はこちらだと思います。」
そこには「薬草集め。募集人数4人」と書かれていた。ルミナの赤い瞳がメイを励ますように輝き、彼女の翼から光の粉がふわりと舞う。