表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

別れと旅立ち

草原の空気が一瞬、静まり返った。メイの小さな手とウルフの大きな手が重なり、魔力が渦を巻いたその瞬間、目の前に眩い光が広がった。光の中から、生命が誕生する。等身大の獣人の姿――黒い髪が狼のようにしなやかに揺れ、二本の灰色の角が凛とそびえる。赤い瞳は情熱と優しさを宿し、背中の白い翼からは光の粉がキラキラと舞い落ちていた。メイの召喚獣、彼女の心の具現化が、そこに立っていた。


メイの金色の瞳から涙が溢れ、彼女の耳が感動でピクピクと震えた。「わ、わん…!」彼女は声を上げ、涙が頬を伝う。「こんなに…綺麗な…私の召喚獣…!」彼女の尾がふわっと揺れ、心からの喜びが全身を包む。奴隷市での恐怖と絶望が、まるで遠い夢のように感じられた。


召喚獣はメイに向かい、流れるような動作で片膝をついた。その声は柔らかく、しかし力強い。「メイ様、私を生み出してくれてありがとうございます。ここから先は私と共に新たな人生を歩んで行きましょう。私が必ずメイ様の幸せな未来を切り開きます。」


メイの胸が熱くなり、彼女は「くぅん…!」と小さく鳴きながら、ルミナに抱きついた。彼女の小さな体が、ルミナの温もりに包まれる。「うん…一緒に…幸せになろうね…!」涙がルミナの黒い毛に染み込み、メイの尾が嬉しそうに揺れる。初めて感じる、心からの繋がりだった。


ウルフは二人の様子をじっと見つめ、口元に満足げな笑みを浮かべた。「このサイズの召喚獣を生み出したのは初めてだよ。それだけお前の想いが強かったって事だ。お前を選んで良かったよ。」彼の声には、どこか照れ隠しのような響きがあった。


メイはウルフの方を向き、涙を拭いながら深く頭を下げた。「ありがとう…ございます…この命は…私の宝物です…!」彼女の声は震えていたが、感謝の気持ちがまっすぐに響く。奴隷市で出会ったあの冷たい視線の男が、こんな奇跡を自分に与えてくれるとは、想像もしていなかった。


ルミナがウルフに向き直り、再び片膝をついた。「ウルフ様、メイ様の新しい船出の第一歩だけではなく、メイ様に召喚魔法の教えまで誠にありがとうございます。ここから先は私がウルフ様のようなメイ様を導く存在となるのでお任せ下さい。」その言葉は、礼儀正しくも力強い決意に満ちていた。


メイはルミナの言葉に胸を打たれ、目を潤ませた。「ルミナ…私の心が分かってる…! ウルフさん、本当にありがとう…!」彼女の耳がピクッと動き、心からの感動が溢れる。ルミナの存在は、彼女の孤独を埋める光そのものだった。


ウルフは照れ臭そうに頭をかき、苦笑した。「いやぁ、いいけどよぉ……いいけどよぉ……ちょっとコイツ堅苦しすぎやしねぇか? 失敗はしてねぇんだよな?」彼の声には、どこか茶目っ気のある軽さが混じる。


メイはルミナの頭をそっと撫で、笑顔で答えた。「くぅん…! 大丈夫です…ルミナは…私の心を理解してくれてます…!」彼女の指がルミナの黒い髪を優しくなぞると、ルミナの赤い瞳が嬉しそうに細められる。


ルミナは頭を撫でられながら、穏やかに微笑んだ。「ウルフ様、こういった堅苦しさはメイ様に悪い人間を近づかせない為に意図的に行ってる部分もあります。勿論、私もメイ様と二人きりになれば甘えさせて頂きますよ。」その声には、礼儀正しさと親しみやすさが絶妙に混ざっていた。


メイは照れ笑いを浮かべ、頬を少し赤らめた。「えへへ…ルミナったら…でも嬉しいな…!」彼女の尾がパタパタと揺れ、ルミナとの絆がすでに深まっているのを感じる。奴隷市での孤独な日々が、こんな温かい瞬間につながるとは、夢のようだった。


ウルフは二人の姿を見て、豪快に笑った。「ハハハ、まぁいい相棒が出来たじゃねぇか。その相棒と二人で、お前の望む未来を切り開いていくんだぞ。」彼の笑顔が一瞬消え、真剣な目でメイを見据える。「最後に言っておく。俺は善人なんかじゃねぇ。お前を実験台に使っただけだ。俺には生み出せないイメージを他人の力を使って実験してるだけだ。」


メイは一瞬震えたが、すぐにウルフを強い目で見つめ返した。「でも…私に人間を信じる心をくれました…それだけで…善人です…!」彼女の声は震えていたが、その言葉には揺るぎない信念が宿っていた。奴隷市での絶望、ウルフとの出会い、ルミナの誕生――全てが、彼女に新たな希望を灯していた。


ウルフはふっと笑い、「仲良くやるんだぞ。じゃあな!」と言い残すと、メイに向かって何かを放った。彼の手から放たれたのは、紫に光る小さな魔石だった。ウルフとメイニヤック、アルクはそのまま草原の向こうへ歩き去り、風にその姿が溶けていく。


メイは両手で魔石を大切に受け取り、目を輝かせた。「あ…!」紫の光が彼女の金色の瞳に映り、まるで新しい未来を象徴しているようだった。


ルミナがそっとメイの側に立ち、静かに言った。「それなりに高価な魔石です。恐らく売って当面の資金にしろという事でしょう。しかし、それは売り払う物ではなく、想い出として残しておく物……ですよね、メイ様?」


メイは魔石を胸に抱きしめ、力強く頷いた。「うん…! これは…私の新しい人生の始まりの証…大切にするね…!」彼女の耳がピクッと動き、尾が希望に満ちて揺れる。ルミナの赤い瞳が優しくメイを見つめ、二人の間に静かな絆が流れる。奴隷市から始まったメイの物語は、ルミナという光を得て、今、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ