求めてたもの
草原の風がメイの頬を撫で、彼女の獣の耳をそっと揺らした。町外れの広々とした野原は静かだったが、メイの心は高鳴っていた。数十分前、ウルフは街へと姿を消し、今、大量のパンを抱えて戻ってきた。黒い外套が風に揺れ、彼の鋭い目はメイをじっと見つめる。「イメージは出来たか? とりあえず、これを食って召喚獣作りに備えろ。」
メイはパンを手に取り、目を輝かせた。「はい! イメージは…はっきりしました…!」彼女の尾が小さく揺れ、初めての希望が胸に灯る。
ウルフが一歩近づき、低く言った。「最初に言っておく。お前は水と、風と、地属性の魔法が苦手だと言っていただろう?」
メイの耳がピクリと下がり、不安げな表情が浮かぶ。「は、はい…水と風と地は…苦手です…」
ウルフの声に力がこもる。「それはお前の深層心理に不安があるから苦手なんだ。水は冷静なイメージだ。風は自由なイメージだ。地は堅実のイメージだ……どうだ? 全てお前の奴隷生活の状況とリンクしてるだろう?」
メイはパンを握りしめ、胸に刺さる言葉にうつむいた。「うっ…そうです…冷静になれなくて…自由も奪われて…堅実な生活なんて…」彼女の声は震え、過去の奴隷生活の重さが再びのしかかる。
ウルフの目が鋭く光った。「お前の望む召喚獣が生まれさえすれば、その不安は全て消し飛ぶんだ。だから成功を信じろ。成功すればその不安は全て吹き飛ぶ。お前の苦手は苦手じゃなくなるんだ。」
メイの金色の瞳に涙が浮かび、彼女は力強く頷いた。「くぅん…! 信じます…私の召喚獣を…!」
ウルフは満足げに頷き、パンを指した。「準備が出来たら言え。パンは好きなだけ食ってもいい。」
メイは急いでパンを頬張り、むしゃむしゃと食べながら答えた。「はい…! 準備…できました…!」彼女の尾がピョコピョコと動き、決意が感じられる。
ウルフが右手を差し出した。「よし、やるぞ。俺の右手に手を重ねろ……ゆっくりやるから大丈夫だ。」
メイは震える手で、そっとウルフの手に自分の小さな手を重ねた。「は、はい…お願いします…」彼女の心臓がドキドキと高鳴る。
ウルフの声が静かに響く。「まず、ベースの火と光の魔力からスタートだ。このベースはお前の望むものだ……少しずつ送れよ……」彼の手から温かい力が流れ始める。アルクが翼をバタつかせ、応援するように叫んだ。「炎のようにお前を強く導き、光のようにお前を導いてくれる存在を意識しながらだぞ!」
メイの手のひらがじんわりと温かくなり、彼女は目を閉じた。「う、うん…」彼女の心に、炎の熱と光の柔らかさが広がる。「あ…熱い…でも…心地いい…」
ウルフが次の指示を出した。「次に、地の魔力を送る……これは召喚獣が自分の手に負えない存在にならないようにという、堅実さからだ……お前も自分の作った召喚獣に殺されるのは嫌だろう? ここで制御をしっかりかけておくんだ。」
メイの手が少し震えながらも、彼女は頷いた。「はい…! 制御…しっかり…かけます…!」彼女の爪が無意識に自分の太腿をゆっくりと引っ掻く。
ウルフの声がさらに続く。「続けて、風の魔力……今、お前は誰も生み出した事のないような物を生み出そうとしている……そこに必要なのは風のような自由さだ……ここでしっかりと自分のイメージを伝える……」
メイは風の流れを感じ、目を固く閉じた。「くぅん…! 自由に…! 強く…! 優しく導いてくれる存在…!」彼女の尾が大きく揺れ、イメージが鮮明になる。
ウルフが最後の指示を出す。「さぁ、後は微調整だ……お前が望む性格、姿形、それぞれのイメージがどの属性のイメージかを考えろ……俺はフォローするだけだ……お前が微調整しろ……!」
メイの心に、はっきりとした姿が浮かんだ。「角は…光の属性…翼は風の属性…体は地の属性で…でも心は…火の情熱を…!」彼女の声に力がこもる。
二人の魔力が交錯し、空気が震えた。草原に光と風が渦巻き、一つの生命が形を成し始める。ウルフが叫んだ。「コイツの名はなんだぁ!?」
メイは震える声で、しかし力強く答えた。「ル、ルミナ…! 私の光と…導きの象徴…ルミナです…!」