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召喚獣の授業

草原の風がメイの獣の耳をそっと撫で、彼女のふさふさの尾を揺らした。町外れの広々とした野原は静かだったが、メイの心はざわついていた。目の前には、黒い外套をまとったウルフと、鋭い目をした召喚獣のメイニヤック、そして喋る鳥のアルク。メイは地面に座り込み、膝を抱えて小さくなっていた。自由を与えられたはずなのに、彼女の胸には重い不安がのしかかっていた。


ウルフが一歩踏み出し、低い声で言った。「さて、ここから、少し召喚獣を生み出す事についての授業だ。」


メイは小さく頷き、おとなしく地面に座った。彼女の耳がピクリと動き、ウルフの言葉に耳を傾ける。「は、はい…教えてください…」


ウルフの目がメイをじっと捉えた。「召喚獣で一番意識するべき事は『召喚獣に明確な目的』を求める事。これはアルクがわかりやすい。アルクはメイニヤックが生み出した召喚獣なんだ。『メイニヤック自身が喋れないから、俺に言葉を伝える存在がほしい』と明確な目的を持っていたから生まれたんだ。」


メイはチラリとメイニヤックを見た。黒い毛並みの召喚獣は、まるで彼女の心を試すようにじっと黙っている。彼女の声は小さく震えた。「そ、そうなんですか…私も…何か明確な目的を…?」


ウルフの声が鋭く響く。「そう。だから、今お前に大事なのは弄ばれるだけに買われて捨てられたという『絶望』をしっかりと、自覚する事。もう一度言う、お前は金も宿も飯も友人もいない絶望的な状況なんだ。」


メイの金色の瞳から、ポロポロと涙がこぼれた。「う、うぅ…そうです…私には…何も…ない…です…」彼女の耳が力なく下がり、尾が地面に垂れる。胸を締め付けるような孤独感が、彼女を飲み込んでいた。


ウルフはさらに声を張り上げた。「さぁ、考えろ!?この絶望的な状況を打破する為には何が必要だ……!?お前は何を望む……!?力か、金か、宿か、友人か今欲しいものはなんだ!?死ぬ気で考えろ!」


メイは地面に爪を立て、必死に考えた。「くぅ…ん…」彼女の頭の中で、過去の記憶――村を失い、奴隷市で怯え続けた日々がぐるぐると渦巻く。「私…私に必要なのは…力…です!この状況から…這い上がる為の…!」


ウルフの目が光った。「這い上がる為には何が必要だ!?もっと明確にだ。明確にこういった相棒が入れば自分は這い上がる事が出来ると、頭を使って考えろ。」


メイは目を見開き、必死に言葉を絞り出した。「くぅん…!私に…火と光の召喚獣を…!この二つがあれば…生きていける…!」


ウルフが熱を込めて問い詰める。「何故、火と光なんだ!?何故、水や風じゃない!?もっと明確にだ……!」だが、その瞬間、メイニヤックが「ガウ!」と低く吠え、ウルフを制した。巨大な犬の目は、メイにじっと向けられている。


メイは震える声で答えた。「ひ、火は…敵を追い払えて…光は…道を照らしてくれる…生きる為の…力になります…!」彼女の尾が小さく震え、必死さが言葉に滲む。


ウルフの口元に満足げな笑みが浮かんだ。「いい答えが出たぞ。今お前が求めるものはそれなんだ。お前に必要な仲間は自分を引っ張ってくれるって、自分に迫ってくる敵や危険を『殺す』ではなく『追い払ってくれる』仲間なんだ。」


メイは涙を拭い、頷いた。「はい…!私を…守ってくれる召喚獣を…ください…!」


ウルフは一瞬黙り、彼女を見下ろした。「一旦休憩だ。そのイメージをもっと明確に整理しておけ。飯を買って来てやるよ。召喚獣作りにはお前の力も必要になるんだ。腹ペコなら力は出ないだろう。」そう言うと、彼は街の方へ歩き出した。メイニヤックがその後ろを静かに追う。


メイは地面に座ったまま、ぼそっと呟いた。「火と光…私を守ってくれる存在…」彼女はメイニヤックを見つめ、そっと目を細める。「待ってます…」


すると、アルクがバタバタと翼を動かし、鋭い声で話しかけてきた。「オイ、もっとじっくり整理しておこうぜ!お前にはまだ足りないんだ!」


メイは困惑した表情で首をかしげた。「え…?まだ…足りない…んですか?」


アルクが翼を広げ、熱っぽくまくし立てる。「火には情熱や熱血ってイメージがあるだろう!だからお前が『追い払う』事を火でイメージしたのなら『情熱的に追い払う』みたいな深層心理があるはずなんだよ!」


メイはハッとして目を輝かせた。「あ…!そう、です…私…強くなりたいんです…!弱い自分から…抜け出したいんです…!」


アルクの声が弾む。「なるほど!じゃあ、ひょっとしたら、自分のお手本になるような、師匠や先生のような熱血漢を求めてるのかもしれねぇな!」


メイの耳がピクッと動き、尻尾が小さく揺れた。「うん…!私を…強く導いてくれる存在が…欲しいです…!」


アルクがさらに畳みかける。「そうか!光のイメージは『導き』だったんだな!?これは俺達は持ってなかったイメージだ!ウルフも喜ぶぜ!」


メイの瞳がキラキラと輝き、声に力がこもる。「はい!私を…正しい道に導いてくれる…そんな存在が欲しいです…!」


アルクが翼をバタつかせ、叫ぶ。「さぁ、ウルフが戻ってくるまでにもっとイメージをしっかり持つんだ!お前のイメージが明確な程、優秀な召喚獣が生まれる!ソイツの姿形はどんな姿だ!?明確なイメージを持つんだ!」


メイは両手で形を作り、目を閉じてイメージを膨らませた。「えっと…大きな…狼の姿で…角と翼があって…光をまとってる…!」

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