町外れの草原
メイの小さな体は、鎖の擦れる音を背に、男に連れられて奴隷市を後にした。埃っぽい市場の喧騒が遠ざかり、代わりに風のそよぐ音と草の匂いが彼女を包む。町外れの草原は、どこまでも広がる緑の海のようだったが、メイの心には安らぎなどなかった。彼女の獣の耳は不安げにピクピク動き、尾は縮こまって揺れている。男の足音が重く響くたび、彼女の心臓は締め付けられるように跳ねた。
男は立ち止まり、黒い外套を翻して振り返った。そこには、まるで彼を待っていたかのように、黒い大きな犬と一羽の鳥がいた。犬の毛は闇のように深く、目は鋭くメイを捉える。鳥は翼を軽く広げ、どこか不敵な雰囲気を漂わせていた。男の口元がわずかに動く。「さて、始めるか。」その声は、冷たく、どこか楽しげだった。
メイは怯えながら周囲を見渡した。誰もいない草原。逃げ場はない。彼女の声は震え、か細く漏れる。「こ、ここで…私を殺すんですか…?」
男の目が一瞬、鋭く光った。「殺すより、もっと残酷な事をする……だがチャンスはある……チャンスを掴むかどうかはお前次第だ。」その言葉は、まるで謎かけのようにメイの耳に響いた。
メイの耳がピクリと下がり、彼女は声を震わせた。「ど、どういう意味ですか…?チャンスって…」
男は一歩近づき、彼女を見下ろした。「まず、お前の奴隷を解放してやる。お前は自由だ。」
「え…?」メイは困惑し、目を大きく見開いた。自由。その言葉は、かつて村で風を切って走っていた記憶を呼び起こす。でも、すぐに現実が彼女を飲み込む。「自由…なのに、なんでそんな事を…?」
男の声が低く響く。「しかし、解放するだけだ。その後の事は知らない。お前には金もない宿もない食糧もないという絶望が待っている。まだ屋根と飯がある奴隷生活の方がマシだっただろう?お前に絶望的な状況を与えてやる。」
メイの膝がガクンと崩れ、彼女は地面に膝をついた。「くぅ…ん…」震える声で、彼女は懇願する。「お願い…私を奴隷のままにしてください…一人は怖いです…」
男の口元に、ほのかな笑みが浮かんだ。「そう、一人は嫌だろう?だから一つだけ手助けをしてやる。」彼はメイに顔を近づけ、囁くように言った。
メイは思わず顔を背け、小さな声で呟いた。「て、手助けって…どんな…?」
男は身を起こし、黒い犬の方を指した。「こっちはメイニヤック。相棒は他人の使った能力をコピーする力を持っている。100年に1度の召喚獣の王らしい。」
メイはおずおずとメイニヤックを見た。巨大な犬の目は、まるで彼女の心を試すように光っている。彼女の尾が小さく揺れ、声がかすれる。「コピー…?私に何をさせるつもりなんですか…?」
その時、突然、鳥が翼をバタつかせ、鋭い声で叫んだ。「そして俺はアルクだ!しっかりウルフの話を聞けよ!」
メイは驚きのあまり尻尾をピンと立て、目を丸くした。「え…!?喋る鳥さん…?」
男――ウルフは、ふっと笑って続けた。「こっちも召喚獣だ。お前に一つ召喚獣を与えてやる。だからお前は一人じゃない。ここで奴隷契約解除されても相棒と二人で解放される事になる。」
メイの震える手が、恐る恐るメイニヤックの方へ伸びた。「わ、私に…私の召喚獣を…?」
「ガウ!」メイニヤックが突然吠え、鋭い牙をむき出しにした。その威嚇に、メイは手をサッと引っ込め、縮こまる。「ひぃっ!ご、ごめんなさい…話を…聞きます…」




