表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

いつでも、臨機応変に

リチャードの叫び声が、静かな水面を砕く石のように坑道に響き、亡霊たちが一斉に動き出した。虚ろな気配が暗闇を満たし、冷たい影がリチャードに向かっていく。

その瞬間、ルミナは背中の白い翼を広げ、夜空の星が瞬くように光の粉を散らしながら、リチャードへ一直線に飛び込んだ。

「作戦変更です。もう音を立てながら行動しましょう。メイ様とソルベ様は脱出を……!」

彼女の声は、微かな風のように、緊迫した空気を切り裂く。


メイは震えながらも決意の表情で前に進み出た。

「ダメ!ルミナを一人にはできない!私も...!」

彼女の金色の瞳は、夜空の星が雲を突き抜けるように輝き、紫の魔石を握る手が震える。亡霊たちの気配が、奴隷だった過去の傷を抉るが、ルミナへの信頼が心を支えた。


ソルベがメイの腕を強く掴んだ。

「メイ……!ルミナを信じろ……!俺達は脱出するぞ!あの子は特別なんだろ!?」

彼の声は、古い墓標に刻まれた文字のように力強く、しかし切実だった。


その言葉に、メイの心はルミナの存在を呼び起こす。彼女は自分の願いから生まれた特別な召喚獣――奴隷だった自分を導き、新たな道を示してくれた存在。ルミナの赤い瞳が、夜空の星のように心に灯る。そんな彼女が「脱出しろ」と導いている。


メイは涙を堪え、震える声で呟いた。

「うん...分かった...ルミナ、必ず戻ってきてね...!」

彼女の尾が小さく揺れ、恐怖と信頼が交錯する。


ルミナはリチャードの元に辿り着き、背中から抱え上げた。だが、その瞬間、亡霊の冷たい手がルミナの腕に触れ、茶黒い変色が広がった。彼女はリチャードを抱えたまま、冷静に腕を見つめた。

「この腕……呪いか何かでしょうか……恐らく闇属性と土属性ですね……坑道だから砂塵の呪いか何かですね……」

彼女の声は、静かな水面のように穏やかで、危機の中でも分析を続ける。彼女はリチャードを抱え、出口へと引き返す。


ルミナは静かに呟く。

「……砂塵は風で払いましょう」

変色した腕に自らの息を吹きかけると、夜風が雲を払うように、茶黒い呪いが消え去った。彼女は二人の元へと向かう。


ソルベが叫んだ。

「走れ……!走るんだ、メイ……!音が聞こえない距離まで引き離せば奴らは襲って来ない……!」

彼の声は、坑道の石壁に反響する叫びのように、緊迫感を煽る。


メイは必死に走りながらも、時折後ろを振り返った。

「はい!みんな...無事に...!」

彼女の声は震え、尾が不安げに揺れる。亡霊たちの気配が、まるで過去の傷を追いかける影のように迫る。


ルミナがリチャードを抱えてまま二人の元に追いついた。

「リチャード様の救出は成功しましたが、この亡霊達……思った以上に素早いです。危険な状況です。」

彼女の赤い瞳は、夜空の星のような冷静さを保ちつつ、危機を伝える。


亡霊たちは執拗に四人を追い、暗闇が一層重くのしかかる。メイは震えながら走り続けた。

「くぅーん...怖いよぉ...でも、みんなで逃げないと...!」

彼女の金色の瞳は恐怖に揺れ、しかし仲間への想いが足を止めさせない。


ソルベが叫んだ。

「ええいっ……!ルミナ!リチャードを捨てろ、自業自得だ!君のスピードなら逃げ切れる……!メイを抱えて逃げろ……!」

彼の声は、古い墓標に刻まれた警告のように苛立ちを帯びる。


ルミナが驚き、声を上げた。

「し、しかし……」

彼女の赤い瞳に迷いが揺れる。


ソルベが振り返り、亡霊に身構えた。

「リチャードは俺がなんとかする……!君はメイを抱えて逃げろ……!早くしろ……!」

彼の姿は、暗闇に立ち向かう石壁のように力強かった。


ルミナは苦しそうな表情でリチャードを地面に下ろし、メイの背中を抱えた。

メイはルミナの手から必死に抵抗した。

「やだ!ソルベさんを置いていけない!みんなで逃げないと...!」

彼女の声が夜の静寂を破る風のように、仲間への想いで響く。


ルミナが悔しそうに言った。

「メイ様の気持ちは御理解出来ます……しかし……くっ……!」

彼女の声は、水面の波紋のように、メイの心に突き刺さる。


メイの心に、ルミナの判断が重く響く。

それでも抗いたい。

この街で始まった新たな人生――その記憶が、まるで夜空の星のように次々と蘇る。

ルミナの助言で選んだ薬草摘みの仕事。初めての仕事でソルベが優しく教えてくれたこと。宿屋の主人の温かい笑顔。酒場のマスターの陽気な挨拶。ダグラスやケントと挑んだシャドウバードの退治。

そして、帰り道の会話で気づいたこと――自分はこの街のことをまだ何も知らない。

ダグラスは過去を教えてくれなかった。

「過去は土に埋めろ」とだけ言った。


メイは震える声で呟いた。

「過去は...土に埋めて...」

涙が頬を伝う。

「過去は...進土に埋める...?」

彼女の金色の瞳が揺れ、亡霊たちの無念と自分の過去が重なる。

お化けも土に埋めればいい。お墓を作って成仏させてあげればいい――その閃きが、心に小さな光を灯した。


だが、お墓はどうやって作る?メイはルミナに目を向けた。

「ねぇ、ルミナ...お墓...作れば...亡霊達は成仏できるのかな...?」

震えたその声は夜の風のように儚い。


ルミナが驚いた表情で答えた。

「お墓……いけるかもしれません……!?メイ様……そのイメージをしっかり持って下さい!私の力で具現化させます!んんっ……!」

赤い瞳が、夜空の星のように力強く輝く。


メイは背中からルミナの力が流れ込むのを感じた。イメージが形になっていく。

彼女の右手から、小さな四角いお墓が浮かび上がる――『石碑の封印』。

その小さな墓標で触れれば、亡霊を成仏させられる。メイは確信した。


「わん!これで...みんなを助けられる!」

メイは石碑を見つめ、決意に満ちた表情で叫んだ。彼女の尾が力強く揺れ、恐怖を乗り越える光が金色の瞳に宿る。


ルミナが向きを変え、メイを連れて亡霊たちへ向かった。

「メイ様……!いきますよ……!皆を救いましょう……!リチャード様も、ソルベ様も、そして……あの奴隷亡霊達も!」

彼女の翼が再び広がり、光の粉が暗闇に舞う。


メイは石碑を握り、叫んだ。

「はぁぁぁっ!安らかに...眠って...!」

彼女は亡霊に石碑を叩きつける。夜空の星が闇を貫くような、決意を放つ。

坑道の暗闇が、彼女の小さな光で揺らぎ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ