仕事の後は
酒場に戻った四人は、カウンターで報酬を受け取った。ソルベが豪快に笑いながら、各自に金貨を分配した。「いやぁ、思ったより早く終わったねぇ、バーニングフラワーの間違いもなかったし、皆手際良かったよ。」彼の強面が柔らかい笑顔に変わる。
メイは報酬を受け取り、頬を赤らめた。「え、えへへ…! みんなと一緒だったから…頑張れました…!」彼女の獣の耳がピクピク動き、ふさふさの尾がパタパタと揺れる。紫の魔石を握りしめた手には、初めての成功の喜びが宿っている。
ソルベがテーブルを叩き、気さくに提案した。「今日、皆の働きがよくて俺も楽出来たから、皆にご飯奢るよ。この後付き合ってよ。」
メイの目がキラキラと輝き、尾が嬉しそうに大きく振られた。「ほ、本当ですか…!? みんなと…ご飯…!」彼女の声に、純粋な喜びが弾ける。奴隷市では味わえなかった、仲間との温かい時間が、彼女の心を満たす。
ソルベがニッコリ笑い、続けた。「あ〜、それでそれで……メイとルミナは今日は宿屋に泊まる予定でしょ? そこも宿屋の主人に『ソルベの紹介で来ました』って言ってみるといいよ。多少、まけて貰えると思うわ。」
メイの瞳が潤み、「く、くぅん…!」と小さく鳴いた。「そんなに気を使っていただいて…!」彼女は感激で目を潤ませ、ソルベの優しさに胸が熱くなる。
ソルベがケントに目を向けた。「ケントはどうなの? まだまけて貰えてるの?」
ケントが苦笑いしながら答えた。「いえ、自分は『そろそろ慣れて来たでしょ?』と言われて通用しなくなって来ました。」
メイは申し訳なさそうな表情で、慌てて言った。「あ、あの…私も宿代、払わないと…!」
ソルベが手を振って笑った。「いやぁ、最初は俺の名前使いなよ。この街には色んな事情の人がいて、やっぱり中にはお金に困ってる人もいるんだよ。そういうのは街全体もわかってるの。だから甘えれる時は甘えればいいよ。そんな自分一人で何とかしなきゃ〜なんて考えなくてもいい。」彼の声はぶっきらぼうだが、深い気遣いが滲む。
メイは涙を拭い、尾を優しく振った。「う、うん…! ソルベさんの優しさ…ありがとうございます…!」彼女の金色の瞳に、初めて出会った人間への信頼が宿る。
ソルベが急に立ち上がり、頭をかいた。「あっ、ごめん……ちょっとだけ煙草吸いたくなったわ……悪ィ、ケント、付き合ってくれる? メイとルミナは悪いけどそこで待ってて。」
メイは心配そうな表情で二人を見送った。「は、はい…! 気をつけて行ってきてください…!」彼女の耳がピクリと動き、ソルベの背中を見つめる。
ソルベとケントが酒場の外に出ると、ルミナがメイに小声で囁いた。「メイ様、あのソルベと言う方、かなりの手慣れです。」彼女の赤い瞳が静かに輝く。
メイは頷き、声を潜めた。「く、くぅん…! 色んな人の事…知ってそうですよね…!」彼女の耳がピクッと動き、ソルベの優しさに心が温まる。
ルミナが穏やかに続けた。「戦闘能力だけでは、私が優っているでしょう。しかし、あの方の人間観察力と相性判断、リーダーシップなど……それは私以上のものがあります。恐らく私達が元奴隷という事も察しているでしょう。」
メイの耳がピクッと動き、声を潜めて言った。「そう…なんですね…。私も、人間が怖かったのに…今は…」彼女の尾がそっと揺れ、過去の恐怖が薄れていく。
ルミナが優しく微笑んだ。「そうです。あの方の優れている所はその優しさです。私達が奴隷と察しても敢えて黙っていたのでしょう。それは優しさからです。恐らく酒場の他人の過去を深掘りしてはならないという暗黙ルールも彼が作ったのではないでしょうか?」
メイの瞳が感動で潤んだ。「そう、なんですね…! だからみんな…安心して働けてるんですね…!」彼女の声に、ソルベへの尊敬が滲む。
ルミナが静かに続けた。「彼の本日の行動には、まだまだ私達が読み切れてない『隠れた優しさ』があります。無意識的に行っているならまだしも、意識的にやっているなら彼は相当の人物です。」
メイは尾を優しく振った。「う、うん…! 私も…少しずつ人間を信じられるようになってきました…!」彼女の金色の瞳に、希望の光が宿る。
ルミナがメイを見つめ、穏やかに言った。「メイ様、彼を一つの目標にして見て下さい。目標にする人物は一人だけでなくても構いません。目標にする人物が二人、三人といてもいいのです。これからもそういった人物に出会って行きましょう。」
メイは感動で震え、涙を拭った。「わ、わん…! 私も…そんな風に…誰かの支えに…なれたら…!」彼女の声に、強い決意が響く。
ルミナが優しく頷いた。「そうです。その通りです。そしてメイ様が誰かの目標になれる存在になればいいのです。」
ソルベとケントが酒場に戻ってきた。「あ〜、待たせてごめんね〜。それじゃあ皆で飯食べよう。好きな物注文してよ。」ソルベの豪快な声が響き、酒場が一気に賑やかになる。
メイは嬉しそうにメニューを見ながら、尾をパタパタ振った。「は、はい! お腹…すきました…!」彼女はルミナと目を合わせ、紫の魔石を胸に抱く。初めての仕事、初めての仲間、そして初めての信頼――メイの新しい人生は、温かな笑顔と共にもう一歩踏み出した。