8 目指すは地上
ま、そんなことより食べよう!……あ、ちょっと凍っちゃってる…。解凍しまっせ。
火の粉よ、顕現せよ、ローファイア、火の粉よ、顕現せよ、ローファイア、火の粉よ、顕現せよ、ローファイア………………
直接火をぶつけるのではなく、周りに生成した。
そのかわりすぐに消えるから、何度も脳内詠唱しなければならなかったけどね。
なにか燃やせるものがあれば……あ、これが丁度いいや。
僕はゴブリンたちが落とした木の棍棒を薪代わりにしてそこに着火し、残りのゴブリンもそれで焼いた。
さて、ようやくだ…。それではいただきます。
皮は緑、血肉は焼いた後でも紫っぽい。ちゃんと血抜きとかしてないからだけど。色以外は食えなくもないと言っていい。
抵抗そこまでない。赤緑バチの経験によって以前より薄れているからなんだろうね。
そして、その肉片焼きを口に入れた。
……なるほど。赤緑バチよりマシ。実はクソデカクソマズキノコに味覚がやられていて、そう感じているのかもしれないと思ったが。とはいえ不味くないわけではない。
まぁ流石に、前世叔母に作ってもらったカレーの味は今だって忘れていない。比較するまでも言うまでもない。
やはり、マズ飯を食っていて思う……。
地上に出ておいしいものが食べたいよ~…。――と。
これでも一人暮らししていたから、料理はかなりできる方だ(と思っている)。
せめて食材が欲しいものだ…。
「そういえばシラフィルはどう?食べれる?」
「食べれるよ。いつもこういうのを食べてる。」
……おい、元主さん。いや、ク・ソ・主さん…。今までなんてものをシラフィルに食わせてたんですかぁあああ!!!最初はヘビを使い魔にするという、なかなかわかってらっしゃる方かと思えば……扱いが雑では?いや、あくまで僕は元人間だからこそおいしくないと感じているだけで、実際使い魔は倒した魔物を餌として与えられることは普通…?
「え、ヴァルシリィどうしたの……!?怖いよ…?」
「あ、ごめんごめん。気にしないで…。」
こうなったら…!さっさと地上に出て、シラフィルにおいしいものたくさん食べさせてあげねば!
それが、僕が地上に出てからの一つの目標となった。
食べきれなかった分は、シラフィルの氷属性魔法で冷凍してもらった。この洞窟の気温が低いこともあって、すぐに溶けることはなさそうだ。
「魔力が切れそうだから、私は一旦眠る。あなたも魔力切れには気をつけて。さっきから魔法連発しているんだし。」
「あぁ、安心して眠り給え。僕が見張っておくからね。」
そうしてシラフィルは眠りについた。
魔力切れか……そういえば、魔力をかなり込めたローファイアを打ったあと、運動後とはまた違う疲れを感じたんだよな。多分それで自分の残り魔力量がわかるのかも。
あれから体感3時間くらい経過した。
特に魔物がここに襲ってくることもなかったおかげで、僕たちはゆっくりと過ごしていた。
すると、シラフィルが動き出した。
「あ、おはよう。よく眠れた?」
「うん。いつもは一人で周囲の警戒を怠れなかったから、十分眠れていなかった。でも今日はヴァルシリィのおかげでよく眠れた。ありがとう。」
「さて、僕はこれから地上を目指していこうと思っているけど、シラフィルはどうする?」
「さっきも言ったけど、もちろんあなたに着いていく。」
「うんうん!旅のお供が欲しかったから嬉しいよ。じゃあさっそく出発しようと思うんだけど、なにかここに未練はあったりしない?そこのクソ…ゴホンゴホン、主さんたちの遺体とか。埋めてあげておく?」
「そうだね。まだ大丈夫みたいだけど、放置してたらスケルトンになってしまうかもしれない。」
スケルトンも存在するのか。しかもこんな遺体から発生する可能性があると…。それは埋めてあげなければ流石に可哀想だ。
そして、三つのお墓を作った。
墓石はないから、代わりにその人達の名前をカタカナで埋めたところに書いた。
マックス、ジョージ、アントン。
うん。前世の英語圏に居そうな人の名前だ。
シラフィル曰く、死因は餓死だったそうだ。食料が足りなくなって引き返そうとしたところ、道に迷って最後にたどり着いたのがここだったらしい。
魔物を食べようとは考えなかったのかな?
そして、遺品を色々と頂戴したので最後にお墓の前で手を……合わせられなかった。やっぱり不便だ。
「じゃあ行こっか。」
「うん。」
僕たちはシラフィルのアジトを去った。
ちなみに元主さん一行から頂戴した遺品は、お金、持てる分の装備品、そして魔法書だ。
そこそこ大きい鞄が合ったおかげで、一度に運べた。
装備品に関してはもちろん使えないが、地上に出て換金できればと思っている。
残っていたゴブリンは運ぶのが面倒だったので、腹はそれほど減っていなかったが、大半を平らげた。結構お腹いっぱいになってしまったが、その分エネルギーは長持ちするんじゃないかな。
道中も僕らの会話は弾んでいた。
最初の赤緑バチ戦では幸先悪いと思っていたけど、むしろ今は良いくらいだぞ?
「ねぇシラフィル。地上までどれくらいかかる?」
「うろ覚えだけど、地上からさっきの場所までは、たしか丸五日くらいはかかった。」
「丸五日か…あまり開拓が進んでいなかった洞窟だったりして……。結構巨大だったりする?」
「どうだろう…。でも、他の洞窟ダンジョンに行ったときはそんなにかからなかったら、そうなのかもしれない。」
今更だけど、ダンジョンって言うんだね。
「それに、ここに出現する魔物は他より強い。でも、ヴァルシリィは私が今までであった魔物の中で一番強い。味方なのはとても安心。心強い。」
「そうか…。そういってくれると嬉しいよ。それにしてもこっちの方で合っているのか…?でもシラフィルにもわからないよね…。」
「ごめん…。」
「き、気にしないで…!謝るようなことじゃないから…!」
「そうなの?」
シラフィルは元々、主さんたちが亡くなってからは、このダンジョンで生きていくと決めていたらしい。使い魔だったとしても、一人で地上に出れば、普通の魔物と同じように討伐されてしまうからだ。
当然、出口を探そうとしなかった彼女は、ここの構造を把握してはいない。
特別頭が良いわけでもない僕にでも考えられる唯一のヒントは坂道だ。上り坂であれば出口へ、下り坂であれば最深部へ。
とりあえずそれを見つけるまで蛇行し続けるしかないのだ。