5 感動の再会…?の危機
こ、これって、マシロ本人?あなたも転生しましたか?
絶対そうだろ!こんなに似ているのは偶然にもほどがある!
ただ……今の僕が前世の飼い主だったなんて、わかる?なわけあるかい。
前世人間、今クソデカヘビ。
そもそもマシロの記憶に僕がどう残っていたのか……ただのコーンスネークだった頃に飼い主としての認識があったのか怪しい。
今も意思疎通ができないから、これじゃあ僕であることを伝えようがないし、伝えられたとしてもわかってくれるのかさえ怪しい。
あ、あれ?マシロっぽいヘビさん?なんで戻ろうとするの?一人にしないで?
うん。見るからに震えてる。サイズからして勝てない危険な敵だと認識したんだろう。
どうする?マシロだったとしても、そうでなかったとしてもせっかく出会った同種?の魔物なんだから、仲良くしたい。
ずっと一人なのも寂しいしね。
僕が前に出れば更に怖がらせることになりかねない。
ならどうする?
とりあえずトグロを巻いて顔の位置を低くした。たしか自分を大きく見せて威嚇するような動物っていたよね。その逆ならどうだろうか?
警戒を解いてもらいたいところだけども……。
すると、さっきまで震えながら後ずさっていたマシロっぽいヘビさんは、歩を止め、少しずつ近づいてきてくれた。
おぉ~!よしよしいい感じ。……で、次はどうしよう。
多分、じっとして何もしないのが…でもそれでは僕は身動きが取れなくなる。それは困る。
――それから10分くらいが経過した。
こっちはこのマシロのような可愛らしいヘビをじっくり見ることができて嬉しい。
結局困りませんでしたとさ。
あ、決して浮気ではないからな!マシロの方が上であることには変わりない!
「あ、あなたは…」
ん?何?
突然、誰かの声がした気がした。
だが、声の主っぽい人はどこにも居ない。
んー、それも気になるが、またなにかが近づいてきてることの方が心配だ。
それはマシロっぽいヘビさんが来た道からだった。
今度は羽音でも、地面を引きずるような音でもなかった。
低く重たい「ドシ、ドシ」という足音が地面を震わせ、徐々に近づいてくる。
それに混じって、軽快ながらも乱れた小刻みな足音も聞こえる。
複数体、群れってとこか…。
そうして奥から姿を現したのは、緑の肌に尖った耳を持ち、棍棒を握りしめた人型の魔物。
一番奥にいる三体は、前線の個体よりも倍はある巨体だ。――ま、僕ほどではないけど。
それで、この見た目……ゴブリン?結構な数なこと。
そちらさんも魔物どうし、仲良くしま──
「「ウォオオオオオ!!!」」
群れは一斉に雄叫びを上げ、躊躇なく僕らに襲いかかってきた。
…っちょ!いきなり来るんかい!赤緑バチのときと違って、今度は何もしてませんが!
それよりマシロっぽいヘビさん!下がって!
僕は即座にマシロっぽいヘビさんの前に出て、ゴブリンたちの行く手を阻んだ。
我ながらかっこいい?男前?ゴホンゴホン。
――さっきの赤緑バチよりは普通に遅い。これでも食らえ!
そして、僕は勢いをつけた尻尾で前線の小ゴブリンを薙ぎ払った。
「バンッ!」と壁に叩きつけられる小ゴブリンたち。
あれ?初戦は相手が悪かっただけで、僕かなり強かった?アハハ!
そのまま二発目を、後ろの方に居た大ゴブリンたちに打ち込もうとしたが、
「ガシッ!」
相手は三体――だが僕の攻撃は見事に受け止められてしまった。
あ、すみません。完全に調子に乗ってました。
しかも三体の合わさった力は僕に勝っていた。棍棒で押し返され、巨体なのにもかかわらず僕は体勢を崩される。
その一瞬の隙を逃すまいと、大ゴブリンたちが一斉に飛びかかってきた。
振り下げられた棍棒の風圧が押し寄せる。三体の同時攻撃で範囲が広く、その内一体の攻撃は僕の目前に迫っていた。
やばい!?頭大事ぃいいい!!!
咄嗟に身を捻ってかわしたが、振り抜かれた棍棒の先端が皮膚を浅く裂いた。
あっぶないなぁ…。直撃していたら、骨ごと粉砕されていたかもしれない。
まさか、ここまで強いとは……小ゴブリンとは比べ物にならない。というか前線は「居た意味絶対なかっただろ!」っていうくらい弱かった。なんだったんだ…。
一体ならまだしも、三体同時はとても厳しい。
どう切り抜けるべきなんだろうか……噛みついて毒を打ち込む。効くかはわからないが、やってみないことには勝ち筋を見いだせない。
そんなことを考えている間にも、向こうの攻撃はやってくる。
よし、作戦行ってみよー!
まずは、マシロっぽいヘビさんに被害が及ばないように、少し離れたところに誘導する。ついでに三体を密着させすぎないように少しバラけさせる。スピードはややこっちが有利みたいだったから、そこまで苦労はしなかった。
と、ここまで離れれば大丈夫か……って、なんでマシロっぽいヘビさん来ちゃうの!?危ないよ!
幸い、大ゴブたちの注意は僕の方に向いていたから、いきなり向こうに攻撃する心配はない。
一番近くの大ゴブAが襲いかかってくる。
僕はその攻撃をしっかりと捉えて避け、棍棒が振り下ろされたタイミングに合わせて、背後に周り、力強く噛みついた。
すると、噛みついてから3秒も経たずに、大ゴブAは一瞬固まった。
だが、赤緑バチのときのようにはいかなかった。
大ゴブAが、次の瞬間には逆に拳を振り抜いてきたのだ。その重たい一撃は顔面にまとも直撃し、僕は思わず体をよろめかせた。
こ、こりゃあ効いたぜ…。
幸い毒牙はまだ使える。
しかし、効いた毒が体を蝕んでいるのか、大ゴブAは膝をついた。これならいける!
ひと休みもつけないまま、背後から大ゴブBとCが迫ってきていた。
しかしそれは想定済みだ!
僕は準備していた尻尾で、手前に居た大ゴブBを突き飛ばした。
さすがに一人では抑えきれなかったBは、その分厚い尻尾に押されて少し離れたところへ下がった。これで大ゴブCがから遠ざけることに成功した。
すぐ復帰してくるだろうから、急いで大ゴブCの首に噛みついた。
さっきの反省からすぐに離れて、一旦離れた。
そして苦しみだしたと同時に、同じ箇所にもう一度噛みついた。
よし、残り一体――あ、まずい!?
さっき突き放した大ゴブBが居るのは、マシロっぽいヘビさんの場所。
ヤツの注意はそっちに向いてしまっていた。
そして、大ゴブBは棍棒を振り上げた。
やめろー!!!待て待てそっちはダメだー!!!
僕は猛スピードで向こうへ突進した。
そのときすでに棍棒は振り下ろされ始めていた。
間に合ええええええ!!!
その時、不思議なことが起こった。
大ゴブBの地面から突然、緑のツルが生えてきて、ヤツの動きを止めた。
え?なんだあれ!?いやこれはチャンス!
突進の勢いそのままに、謎のツルに絡め取られていた大ゴブBへと巻き付き、さらにその体を締め上げる。
骨がきしむ感触と共に、僕はその頭部へと噛みついた。
次の瞬間、大ゴブBの力はふっと抜け、完全に動かなくなった。
その直後、あの温かな白い光が僕を包み込んだ。
小ゴブリンを倒したときはこうはならなかったから、レベルアップにはある程度経験値的なものを集める必要があるのか。
はぁ…はぁ…危機一髪だった……。
それにしても、このツルは一体なんだったんだ?
魔法っぽかった。だとしても誰が…?
戦いは終わったというのに、不思議な現象はさらに起こった。
突然、目の前が黄緑に照らされたかと思えば、顔の痛みが和らいでいた。
す、すご!?こ、これ回復魔法とかだよね?絶対。
口では言えないけど、お礼がしたいから今やった人姿を見せてくれー!
あたりを見渡してもそれらしき人は居らず、ゴブリンたちの死体と、隣にマシロっぽいヘビさんが居るだけ。
……もしやあなたでしたか?
僕はじーっとマシロっぽいヘビさんを見つめる。
「助けてくれてありがとう。」
ひゃあっ!?え?え?喋ったよね今?
その脳内に響いた声は、明らかに今目の前に居るヘビの口パクと重なっていた。