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3 易しくない初戦闘と食事

 え、え、どうすればいい?

 戦闘経験ゼロかつ、自分自身の体についてちゃんと把握出来ていないであろう僕に考えられる攻撃手段は、噛みつく、巻き付いて締め上げる、尻尾を鞭のように使う、この3つだ。


 噛みつきたくはないな。

 アニメの描写では、今みたいな敵に噛みついた時、体の尖った部位が口の中で刺さるなんていう細かい設定されてないから簡単にそういうことができるけど、現実はそうはいかない。間違えて針が刺さったら大変だ。毒があるかもしれないし。

 締め上げるのは、そもそも空中にいるから捕らえるのが難しそう。

 よって鞭攻撃だけか~…。


 相手はただ突進してきているだけのようだ。

 僕はそれに合わせてベシっと打ち返せばいいはずだ。

 さぁよーく狙って…

 ハチの魔物が僕の体感数メートル先まで近づいてきたと同時に、僕は自分の体を大きく動かして尻尾に勢いがつくようにした。

 そうして勢いを溜めた尻尾を目前まで迫ったそいつに放った!いけー!


 「シュッ⋯」

 呆気なく避けられましたとさ。

 マジか…コイツ思いっきり突進してたのにちゃんと避けた。

 やっぱりそんな簡単に倒せないよな。


 と思った瞬間、さっきまで黒かった赤緑バチの瞳が、憎悪を溶かしたような深紅に染まった。

 あれ?もしかして別に襲ってきたわけではなかった?やらかした?


 背筋を凍らせて顔を青くしていると、赤緑バチは針をこっちに向け、鋭い風切り音と共に突進してきていた。

 その素早い動きには当然対応できず、僕は避けることができなかった。

 次の瞬間、腹に鋭い一撃が突き刺さった。

 「グサッ!」


 がぁあああああ!!!

 痛い痛い死にはしないだろうけど死にはしないだろうけど離れろ離れろ!

 腹が焼けるようだ。前世死んだ後焼けてないだろうね?

 そんなことはどうでもよくて必死に体を動かしてもがくが、赤緑バチは全く離れない。


 あぁもう仕方ないこれでも喰らえー!!!

 「ガブッ!」


 僕は腹に刺さっている赤緑バチの顔に噛みついた。

 うわっ、コイツ硬い。だけど噛み切れないことはなさそうだ。

 腹からの痛みはさらに増してくる…でもここでやらなければ死ぬ!

 腹の激痛と共に、僕は必死で歯を食いしばった。


 しかし相手も無抵抗というわけにはいかず、鎌の腕でさらに僕の腹を攻撃をしてきた。

 針攻撃よりかはマシだが、じわじわと体力が持っていかれていく。

 このままじゃ時間がない。さあ今こそフィギカル火事場の馬鹿力はたらけー!!!また死ぬのは勘弁だからー!!!うぉおおおおお!!!


 その気合でさらに力が入り、相手の体がメキメキと音を立て始めて鎌攻撃も一瞬止まった。

 僕はこのチャンスを逃さず、腹に刺さった赤緑バチを抜いてそのまま洞窟の壁に噛んだまま叩きつけた。


 いだぁああああ!!!めっちゃ痛い!抜いたの間違いだったかも!!!

 しかし、その必死の抵抗こそが、赤緑バチを打ち倒す決め手となった。


 あ、倒した?

 う、うげぇー。さっきまでは痛みでどうでもよくなってたけど、噛んだときに出てきた液体が口に入ってクソ苦い…。


 そんなことを思った矢先、ふわっと白い光が僕を包み込んだ。胸の奥にじんわり来るような温かみとともに。

 もしやレベルアップ?今の赤緑バチを倒したことで?というかほんとに倒したのか?

 ちょっと離れたところから尻尾でツンツンしてみたが、びくともしない。

 か、勝ったのか…。


 死ぬかと思ったー…。

 そう安心したら、全身の力が抜けたと共に僕は「バタンッ」と倒れた。

 「グゥーー」

 腹減ったね。そりゃあんな動いたらエネルギー使い切るよね。

 イテテテテ…。傷は全く治ってないか…。

 レベルアップは消耗系ステータスの全回復がお決まりだけど、そんな都合よくさせてもらえるわけではないかー。


 そういえば、毒は食らってないみたいだ。

 でもあんな色してたから流石にあるんじゃないかな。

 ということは、僕に毒耐性があったと結論付けてもいいんじゃないだろうか。

 野生のヘビといえば毒持ちが多かったな。マシロは毒のないコーンスネークだったからすっかり忘れていた。あってもおかしくはない。

 あ、もしかしたら僕自身も毒攻撃持ちか!?赤緑バチの動きが一瞬止まったのもそれかも!


 そんでもって、腹ごしらえはどうしようか。

 ……ご察しの通り、目の前にある赤緑バチを食うしか選択肢がない気がしますね、って思ったでしょう?

 ところがどっこい!少し前にキノコがたくさん生えている場所を見つけている!

 しかもひとつひとつかなりのサイズ!なんと僕の体の3分の1くらいのサイズ!十分腹を満たしてくれるであろう量!

 僕が魔物を食う展開になるなんて思ったか!ここにはちゃんと食料がある!


 そう思っていた時期が、僕にはありました。


 まっっっっっっっっっっず!?

 なにこれ!?食えない食えない!シュールストレミング食ったことないけどそれよりまずそうなレベル。

 エグみがすごい。もう尊敬しないレベル。

 生だから?でも今は火を起こす手段がないんだよなぁ…。

 というか調理しても絶対おいしくいただけない。

 そういえば食って大丈夫だったか?まぁ一応毒耐性があると信じて食っているし…。

 ⋯⋯仕方ない。赤緑バチ試します…。


 僕はさっきの戦闘の場所まで戻ってきた。

 よかった、誰も来てない。血の匂いを嗅ぎつけてまた魔物がやってくるんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ。

 そして僕の手、じゃなくて口によって顔がモザイク必須級のとても残念な姿に変わり果てた赤緑バチの死体を再び目の前にした。

 とても食欲が削がれますね。

 けど、ここで食べなければ最悪飢え死に。そんな死に方は僕にとって残念すぎるから、絶対に避けたい。


 まずは一番抵抗がない部位、お腹あたりを食べてみよう。

 毒はもう気にする必要はない。多分。

 抵抗はないと言っても赤と緑のギザギザとしたシマ模様はなぁ…。せめて単色であってほしかった…。

 いや、そもそも前世で虫食ったことなんてないから色関係ないんだけど。

 

 では、いただいてやりましょうか。

 目前まで近づいた。そのインパクトで固唾を飲み込む。

 そして少しだけ食べるように、口をガタガタ震わせながら先端の歯をヤツの腹に入刀する。

 弾力はあるが、頭よりはそこまで固くないみたいだ。

 小さく切り取った肉片を口に含む。

 舌に触れた瞬間、ぬるっとした生臭さが広がる。魚とはまた別の。

 そして、あまり噛まずにゴックンと飲み込んだ。


 ……ありゃ、そこまでひどくないな。デカキノコ比較の話だけど。

 そのままもう一口食べる。今度はちゃんとかもうと思ったが、噛みにくい。いや、ヘビってそもそも食事では噛めないのかも。

 生臭さはかなりキツイが、とても食えないほどではない。決しておいしくもないが。

 これ、ちゃんと調理すれば食べやすくなるな。

 シュールストレミングもちゃんとした調理方法であれば普通に美味しいらしい。それと同じ類かも。

 頭のひどい苦みは脳の味だった説。


 空腹と、思いのほかひどくなかった腹の味に突き動かされ、気づけば赤緑バチのお腹を完食していた。

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