プロローグ
その日もなんの変哲もない普通の一日のはずだった。
朝起きてご飯食べて学校へ。授業は真面目に受けたり寝てしまったり。部活にも入ってないからそのまま帰宅。飼っているペットとの時間。ちょっと勉強(理想)してからまだ見てないアニメを片っ端から再生。いつも通り。
だが、自体は急変した。
「……なんか臭くね?」
BBQかなぁ~・・・じゃない絶対違う!ここマンション!
危険を感じた僕は、急いでキッチンの方に向かった。
「あ、なんだ。」
びっくりした…。どうやら僕のやらかしで火事が起こったわけではなさそうだった。
けどそんな安心もつかの間で、さらなる異変に気がついた。そう、さっきよりも異臭が強くなっていることに。
それは玄関に近づけば近づくほどに強くなっていった。
そして、不安とともにドアを開けた瞬間僕が目にした光景は最悪なものだった。
廊下に燃え広がる炎。黒い煙で奥の方はぼんやりとしか見えない。
「……これ詰んだ?」
いや諦めるな!そしてあいつも連れ出さねば!
そして僕は急いで部屋の奥に戻って、ペットのヘビのマシロが入ったケージを持った。
そのまま壁を蹴り、反射するかのように進行方向を廊下の方へ変えて走り出した。
ヘビ?珍しい?
まぁ、確かにそうだ。
キモい?怖いって?
うちのマシロは可愛いだろ!この雪のように真っ白な体に愛らしい赤い目!今言ったやつもう一回言ってみろ。ぶっとばs
僕が住んでいるのは5階。流石にケージを抱えたままベランダから飛び降りるなんて受け身が取れないから無理だ。せめて2階であれば飛び降りられないこともなさそうだから、そこを目指すことにした。
火を華麗に回避しながらササッと・・・なんてことは運動神経が特別良いわけでもない僕はできず、ビクビクしながら慎重に慎重を重ねて進んでいった。
その最中思った。せっかくバイトして貯めたお金で買ったばかりのゲーム専用PC、あれともうおさらばしてしまうなんて…。ほんとツイてないの極みだよ。
数多くのアニメやらゲームのグッズたち。すまない!多すぎて救えない!たしか僕が入っている保険はこういったものが保証の対象外だった。また一から集め直すと考えると流石に心が折れるなぁ・・・。
いや、今はそんなことよりも無事に逃げることだけを考えないと。こんな事考える暇があるのは火事場の馬鹿力で脳が回っているからなのか?それよりフィジカル的な馬鹿力はたらけよ!っても慎重なので意味はない。
結局その思考のおかげか、いつの間にか階段まで到達していた。
が、煙がすごい。黒い。臭い。喉に来るヤバい。
でも火が回っていないから行くしかない。
マシロは大丈夫だろうか。心配になってケージを見てみたが、動いていたからまだ大丈夫みたいだ。
けど、おそらくこんな小さい体じゃ人間よりも余裕はないはず。
勇気を振り絞ってその階段を降りていった。
しかし降り始めてから数秒で後悔した。あまりの煙で前が全く見えない。息も吸えないからほんとにしんどい。
それでもなんとか3階まで来たところで、
「ゴホッゴホッ!」
その咳とともに肺に裂けるような痛みが走った。
しかも、今の咳でかなり煙を吸ってしまった。
あとどれくらい持つのかこの体は……ってあれ?
僕の体は急に言うことを聞かなくなって、そのまま倒れて階段から落ちていった。
これはダメなやつだ。
いつの間にか五感が鈍っていた。視界はすでに真っ暗。今階段から落ちた痛みがわからない。
混濁する意識の中で思った。マシロを連れて逃げるなんて無理だったか。思っていた以上に余裕なんてなかった。舐めていた。
それでも学校で特別中の良い友達がいなかった僕にとって、マシロは大切な相棒みたいなものだったからおいて逃げるわけにはいかなかった。
興味や認識があったのかはわからないけど、一緒にアニメをよく見たな。今日は寝ていたからそっとしてあげたけど。それに、懐いてたからなのか肩に乗ってくれた。最初こそ首を締められそうではあったっけ。多分今は落としたケージから出て恐怖しているだろう。
ごめん。もっと早く気付けばこんなことにならなかったのに。
運良くさっき聞こえたサイレンの元が助けに来ないかな。いや、もう助からないのはわかっている。
死ぬ、のか。
死んだ両親の代わりに僕を育ててくれた叔父さんと叔母さんにまだ親孝行できてない。
バイトするまで欲しいものは良識の範囲でわりとなんでも買ってくれて、不自由ない生活をさせてくれた。
我儘言って高校から一人暮らしなんて贅沢なこともさせてもらえたっていうのに、ほんとなに勝手にくたばってるんだ。
あぁ、罪悪感しか残らない。
死んだらどうなるんだろ。
アニメの見すぎでファンタジーな異世界転生なんてことを考えた。それならマシロと一緒に転生させてくれよと願ってみた。
それともこのまま父さんと母さんのところに行くのか。
親孝行をせず死んだという罪で少しは地獄にでも落ちてしまうなんてことも考えた。考えすぎかな?
……いや、なにここまで頭が回ってるんだって話だよ。
煙吸いすぎるとたしか思考力も低下するんだよね。
今やられているのは体全体で脳はまだ?
段々と1+1=9とか、僕はどこ?ここは誰?なんて馬鹿なこと考え出すのか?
突然、冷たいものが体に当たったような感触がした。
冷たっ!
と、同時に目を覚ました。ん?目を覚ました?
な、なんだここ。岩だらけの空間。
暗いけど、なんか透き通った光る石もあちらこちらに見えますが?
もしや洞窟?
いやいやいくらなんでも光る石なんてあるわけ…あ、異世界ならあるかも。
どういう世界なのかはわからないが、少なくともこんな人の手が通っていないような空間に光る石なんてあるわけないということで、一応異世界なんだと勝手に思うことにした。
異世界。うん。異世界…結構嬉しいかな?
やはり、異世界ものアニメを好むオタクとして異世界転生は憧れである。いや、実現したらか過去形か。
そんなことが叶ってしまうとは幸運?いや火事は不幸だったよ。
異世界へのワクワク感と死んでしまったことによる前世への未練と罪悪感が葛藤しているが、今はどうすることもできないから前者に飛びつくことにした。
ところでなぜ開始地点が洞窟?
基本はオギャーオギャーって泣かずに「この子には天賦の才があるかもしれんぞ!」とか「泣かないとは不気味な子どもだな…」とか言われてお出迎えされるのがテンプレ?のハズだけど、これは稀な例か。
自分の種族を確認しようと思ったが、洞窟ということはダンジョンがすぐ連想される。ダンジョンということは魔物。
魔物か~…どうせ最初は弱いんだろね。スライムとかゴブリンなんかの初心者冒険者に狩られるような魔物は嫌だな。
とは言っても、もう答えはわかり切っている。
さっきふと視線を下げて気付いた。
鱗のある爬虫類系のなっがいボディ、手足もなくあるのは尻尾だけ。
そう、僕はヘビの魔物に転生したのであった。