epilogue-2:新生活、はじめてみた。
俺は死んだ。確かに死んだのだ。
霧が晴れていく。意識も、視界も、少しずつ明瞭に。
そして目を覚ました。本日2度目の知らない天井。
最後に戻ったのは感覚だった。
ゆっくりと体を起き上がらせる。何故か痛みはない。
周りに繰り広げられた景色は、まるでギリシャ神話のような荘厳さを持った空間だった。
一切の汚れもない、白色のみで構成された世界。もはや芸術の域であり、人という不純物が紛れ込むには余りにも畏れ多い空気である。そして、奥には重厚感のある扉があり、風景に溶け込んでいるにも関わらず圧倒的な存在感を放っている。
自身の置かれている状況を呑みこめる筈もなく、放心状態の俺を前に、その扉がゆっくりと開いた。
そして俺は息を飲む。そして直ぐに視線を逸らした。
扉の先から現れたのは2人の女性。
1人は絶世の美少女という言葉すら物足りないような小柄な女の子。もう1人は創作物ですら生み出せないであろう美しさをもった女性だった。
そして悟る。ここは天国なのだと。
もはや呼吸することにすら自責を感じるほどの空間に、柔らかく幼なげな声が響く。
「あ、ここ天国じゃないよ〜」
「??????????」
王、思考停止。
30歳にもなって死ぬほどイタい夢を見ているのかと思い、両頬を引っ張るものの伸びはしなかった。
「あ〜そうなるよね、ゴメンね⭐︎」
目から星が出たかと思った。というか出てた。
底抜けに明るい、まるで太陽のような少女の声に続き、美の権化のような女性が説明を始めた。
「ここ、死後の世界みたいなものです。死んだ人の魂を一度ここに呼び寄せて、次の行き先を決めるための場所です」
「????????????????????」
王、思考放棄。
現実離れしまくった話の連打で、もはや質問すら浮かばずに聞き続けることとなった。
2人の女神(美しいから)が言うにはこの通りである。
俺は死んだ。コンビニで、アクセルとブレーキを踏み間違えた車の暴走によって。
死んだのだ。しかし、たまたまその様を観ていた2人は俺の過去も含め可哀想だと思ったらしく、このようにして姿を表し今に至る、と。
えええ…過去はともかく流石に節穴なのでは…と思った矢先、遮るように美少女女神が言った。
「節穴じゃないよ〜だ!」
思考が完全にバレている。隠し事は出来ないらしい。
そして、続け様に
「可哀想だから、魔法が使えておもしろ〜い世界に転生させてみちゃうことにしたの!次は何かを成し遂げられるといいね⭐︎」
と言い放つ。その刹那、足元が消えた。2人の女神が微笑みながら手を振る。
「えええええええ扉から行くんじゃないのこういうのってぇぇぇぇぇ」
そして、説明も何も対してされぬまま、培った微かな常識を遥かに凌駕する世界へ産み落とされてしまったのだ。
鶴屋 将生。
30歳、無職、天涯孤独。
これは、かつて掃溜めの王だった俺の冒険譚である。