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「都会で良いことをする話」

作者: 結晶蜘蛛


 桜色の髪の女性が歩いている。

 背丈は低いが、反比例するかのように胸は豊満であった。

 子供のような背丈で、風貌は優しげでたれ目気味であった。

 彼女は視線を青い空にあげて、何者かとしゃべっている。

 しかし、そこには何もいない。ただ風だけがそよいでいた。


 ――…………


「え、あっちの廃ビルにいけばいいの?」


 ――…………


「ああ、花に水をくれたの。あなたにとっては大事なのね」


 ――…………


「うん、わかったわ。私に任せて。きちんといいことをしてくるね」


 柔らかな笑みを浮かべる。

 「んしょ」という声と共に、彼女は廃ビルから鉄パイプを引っこ抜き、進んでいった。



  数人の少年が男たちに囲まれている。

 囲んでいる方は被害者たちより数が多く、廃ビルの廃材の上に腰かけて、笑っていた。

 何人かは頬を抑えて、怪我をしているが、明らかに囲まれている少年たちのほうが怪我がひどい。

 抗争は決着した。

 いまは陰惨な私刑が続いている。


「おら、誰に逆らったわかってんのか!」

「ぐあああああ……っ!」


 勝者の一人が、少年たちの頭に煙草をおしつける。

 煙に交じって肉が焼ける匂いが混ざる。

 きっかけは些細なことである、少年たちが縄張りとしている区域に、別の反グレ勢力が流れ込んできた。

 少年たちも自身の縄張りをおかされるのを嫌がり、両社は激突し――そして敗北した。

 今はもう二度と逆らわないように“ヤキ”を入れている最中であった。


「オレらに逆らうとこうなるんだ、わかったか?」

「は、はい……」

「それじゃ、迷惑料払ってもらおうかな」

「さっき渡した分で、全部です……」

「足りねぇつってんだよ」


 リーダー格の少年が蹴り飛ばされる。


「金がねぇなら、お前の姉ちゃんでも恋人でもこれで呼べよ」

 

 と少年が取り上げたスマホを投げわたす。

 少年は渡されたスマホを振るえる指で持ち上げる。

 にやにやと笑う半グレたち。

 少年は画面ロックを外すためにパスワードをいれていたが、途中で止めた。


「や、やっぱりできません……!」

「はぁ、立場わかってんのか? ヤキが足りねぇようだな。 お前ら、おさえつけろ」


 そういって、少年は数人の男に押さえつけられる。

 少年がもがくが、数人におさえつけられ、ふりほどけない。


「もう二度と人前にでれないように顔中に跡を残してやるよ」

「や、やめろ……!」


 顔に赤く火のともった煙草が少年の顔に近づけられる。

 どこがいいかな、と見定めるようにふらふらと煙草が揺らされる。

 少年がやがてくる鋭い痛みに涙を浮かべて、目を閉じた。


 ごんっ、という音が響いた。


 少年に煙草を押し付けようとした男がぐらりと揺れて、倒れた。

 少年が目をあけると桜色の髪をした女性がしゃがみこんで笑っていた。


「こんにちわ。――唐突だけど君、いつも花壇に水をあげてる? お姉さんに教えてくれない」

「えっあ……?」


 いきなりの場違いな声に驚く。

 わけのわからない女性に反グレの一人がつかみかかろうとしたが、突然崩れてきたがれきに当たり倒れた。


「え、ああ、はい……」

「あ、よかった、君だったのね。あの子が言っているのって」


 女性が誰もいないはずの天井に向かって目配せし、うなずく。

 浮世離れした態度。

 なんとなくかかわってはいけない、と少年は思い、反グレに対するのとは別の恐怖を感じる。

 そんな会話をしている最中にも、反グレのうち何人かが彼女につかみかかろうとして、風で飛んできた紙に顔を覆われこけたり、唐突に水道が壊れて、水びたしになる。

 そこへ電線が落ちて消え、悲鳴があがった。

 

「それじゃ、今日の良いことをしようかな」


 そういって、女性は持っている鉄パイプを振るった。

 彼女が鉄パイプを振るおうとすると決まって、反グレのほうからあたりに来るような挙動をする。

 あるものは突き出た鉄骨に足を取られ――

 あるものは押し出された台にあたり――

 あるものは強風押され姿勢を崩され――

 女性の周囲のものがなぜ女性に協力するように動き、女性の攻撃で反グレたちはあっさりとやられていく。


「はい、おしまい。……うん、1日1善。きちんとできたわね」


 倒れ伏した反グレの面々の真ん中で女性が笑っていた。

 少年たちはその様子を唖然としてみていた。


「君」

「は、はい!」

「悪いことはしたら駄目よ?」

「わかりました!」


 そういえば聞いたことがある、と少年は思い出す。

 ここ最近、悪事を働いた人物の前に現れ罰を下す怪人“台風”を。

 なんでもそいつが通った後には台風が通り過ぎさったようなあとになるからその名前がついたって。

 

「それじゃ、……病院にいったほうがいいよ」


 そういって女性が去っていく。

 少年はその後姿を見ながら、『台風』の名前の意味を知った。

 たしかに、無茶苦茶になった廃ビルの中は台風が過ぎ去ったように無茶苦茶であった。



「うん、あの子は無事だよ。きっと明日も水やりをしてくれるよ」


 女性が空に向かって話しかけている。

 余人には見えないが彼女の視界の中には奇妙なものがうつっている。

 光をまとった鉱石の塊や、顔がパンジーの花になっている女性など、様々な異形が映っている。

 女性は『精霊』と呼んでいるそれは女性にしか見えない。

 しかし、女性がなにかをしようとすると精霊が彼女を助けてくれる。

 例えば彼女が鉄パイプを振ろうとすると、強風が吹き姿勢を崩したりする。

 環境、すべてが彼女に協力してくれる。


「うん、それじゃ、明日も良いことを頑張ろう!」


 そういって、彼女は笑うのだった。


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